研究課題/領域番号 |
24730703
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
日下部 達哉 広島大学, 教育開発国際協力研究センター, 准教授 (70534072)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バングラデシュ / 農村地域研究 / 学歴・職歴接続 |
研究概要 |
本研究では、「バングラデシュ農村部で拡充された学校教育制度と職業の接続の関係性」を、約10年前と全く同じ標本世帯、教育機関、教育行政機関などを追跡調査することによって、10年前のバングラデシュ農村で、受容されはじめた学校教育制度が、次の進路形成のために機能しているのか、特に中等教育または高等教育を卒業したあと、教育をうけたにふさわしい就業機会が得られているのか、農村住民がそのことについて有している学校教育に対する意見、願望、期待なども合わせて調査することを三年間の計画の骨子としている。 調査すべき村は、国内各地に4つ存在するが、初年度である平成24年は、バングラデシュ東部に位置する僻地農村ブラフモンバリア県ソイダバッド村を調査した。この村は産業経済の影響を受けにくい土地柄であるとともに、4農村中最も充実した設備を持ち、かつ政府の支援を受けない「非正規」のマドラサがある。調査には10年前同様の質問項目からなる村センサス調査票を用いた。 調査結果の詳細な分析は25年度に行う予定としているが、大まかな分析では、村人達は、子どもを学校やマドラサに行かせるようになり、親世代に一定数いた未就学者が現在の子ども世代では、ほとんどいなくなっていた。一方で、そのほとんどの、少なくとも小学校には就学し、ある場合には中等学校に進んだ子ども世代は、何らかの仕事に就こうとするものの、ダッカなどの大都市でない限り、職業市場は依然として厳しく、農村部雑業層に就かざるを得ない状況があった。しかし、一方で、国内外への出稼ぎの数が急激に増加しており、ダッカをはじめ、ドバイ、オマーン、サウジアラビア等に数年単位で出稼ぎに行き、現金収入を求める動きが活発化していた。つまり、村人の学歴は上がり、現金収入はたしかに増えたものの、学歴と職歴の「接続」や「連続性」は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究目的は、①10年前に学校に通っていた子ども世代が、現在どのような学歴あるいは職業を有しているか、またそれは、農村部の人々が納得できるようなものか。②親の子どもに対する、将来におけるビジョンの在り方の、ここ10年間の変化。③教育の供給側である学校や教育行政担当者のインタビューによる、10年間の政策的変遷とその政策意図を明らかにすると同時に、初等・中等教育レベルのあり方の多様性に着目し、中等職業教育、女子教育の拡充が、工場労働者、またホワイトカラー人材の輩出を増幅させているのかの検証。④マドラサを分析の範疇に入れることで、モスクやマジャル(聖者の墓)の管理人、マドラサ教師など、宗教関係職にもスポットを当て、イスラーム国家であるバングラデシュで、決して小さくはない「宗教関係職と教育制度」の結びつきにも言及する。⑤以上①②③④の総合的分析から導出される、「学校教育制度がバングラデシュの多様な地域性の中で、人的資本育成に貢献しているのか」の詳細な分析を4農村の多様性に基づき行う。という5つである。 具体的には、これらの目的に向け、4農村を調査する必要がある。申請時に一つ目の農村であるカラムディ村の調査は終了していたため、予定では、24年度終了時点で2つの村の調査を終えている必要があった。国内情勢の変化に鑑み、調査対象村を25年度に行うべき村と入れ替えたが、予定していたフィールドワークを無事に実施し、当初の予定通り、二農村の調査が終了した。これは順調な進捗だといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最初に、24年度の成果をまとめ第49回日本比較教育学会における発表を行う。ここでは、イスラーム教育や国際教育協力の専門家が集うため、より専門的な指摘を受けることによって研究を深化させる目的をもって参加する。 次に、2農村における研究データを整理して、6月にアルゼンチン、ブエノスアイレスでおこなわれる予定である世界比較教育学会にて発表を行う。この学会では世界各国から教育研究者、国際教育協力の研究者、のみならず各国の教育政策担当者、行政官、国際機関の研究者らが集うため、質疑を通じて、専門的な研究の深化を目指す。 最後に、残り二農村におけるフィールドワークを8-9月また2-3月にかけて行う。一つ目は、チッタゴン県ゴヒラ村で、4つの調査対象村中、「経済首都」とも呼ばれるチッタゴン県に位置付く。この村は産業経済や都市経済の影響を受け、卒業生の進路も、それらに関連するものが多い。また、マドラサも政府の補助金を受けている「正規」のものに加え、非正規のものも多く、活動のあり方は活発である。最後の村として、ラジシャヒ県カタルバリア村を調査する。この村も近郊で、都市経済の影響をよく受けている村である。また、調査には前年度同様、従来と同じ質問項目からなる村センサス調査票を用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、データを分析した後は、アジア国際教育学会(CESA)(ブルネイ)における発表を行う予定である。これには、比較教育学及び教育開発の世界的研究者と議論を深めることによって本研究の枠組みの了解可能性を高める目的があり、外国旅費、消耗品費を使用予定である。 次に研究打ち合わせ及び補足調査旅費を使用予定である。フィールドワークと、国内外の学会発表を経て洗練を重ねたモノグラフを基盤に、4農村の比較研究をまとめ、バングラデシュにおける国際援助機関(JICA、USAID等)、ダッカ大学、BRAC大学等で活躍する教育研究者と、調査結果について議論を深めるため、研究打ち合わせの渡航、及びフィールドにおける補足調査を行う。これにかかる必要経費に、研究打ち合わせ旅費(国外)、専門知識の提供経費を予定している。 最終的な枠組み修正やデータチェックなど終わらせた後、「バングラデシュ農村の教育制度受容-10年間の変遷(仮題)」というタイトルで日本語書籍(単著)の執筆を行う。申請者は、既にバングラデシュの教育拡充政策に関する論文・書籍の業績を有しており、イスラーム教育に関する論文・書籍の業績も有している。ここで出版を予定する書籍は、これらの業績も基盤とし、本科研で得られたデータ集積と合わせたものとなる。このため出版に関する研究打ち合わせ旅費(国内)が必要となってくる予定である。
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