研究課題/領域番号 |
24730708
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
松嶋 秀明 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (00363961)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 反社会的行動 / 学校とのつながり / 実践関与型観察 |
研究概要 |
入学当初から対教師暴力、授業エスケープなどの「荒れ」をみせつつも収束にむかった、ある中学校の1学年を対象とした実践関与型観察のうち第2学年終了までの分析を行った。同時に、第3学年の観察を継続した。分析では虐待的養育環境、発達障害などの個的な課題をもつ課題生徒 (これ以後、R)と、一般生徒(これ以後、N)との関係性、教員との関係性に特に注目した。 その結果、第1学年の4月当初の「荒れ」はRを起点として開始されていたが、それに追従する生徒(これ以後、F)がおり、RとFが互いに刺激しあうことで拡大・維持されていると考えられた。Nには、この状況に不満をもちつつも、主張せず、回避的戦略をとる生徒も多かった。教師はRの逸脱行動に対して廊下に常駐して指導する他、積極的に生徒の情報共有につとめた。また、正しい対応をNに繰り返し訴え、クラス作りにつとめた。その結果、Fは追従することが徐々に少なくなり、Rも教師と落ち着いた関係がもてるようになってきた。教師側でも、Rに対する理解の進展にともない衝突回数自体が減少した。 上述の対応策はNとの信頼関係の構築にもつながり、2年目には、これまで目立たなかったNのなかで学年リーダーとなる生徒が現れた他、集団としてのまとまりができたクラスも増えた。なかにはN とつながって教室に入る頻度が増えたRもあらわれた。もっとも、その一方で孤独感を感じたり、周囲と自らの能力のギャップを感じたりして学校から遠ざかりかけるRもいた。 総合すると (1)「荒れ」はRの個的な課題が無媒介に現れたものというより、逸脱を拡大させる一般生徒との関係性が重要な意味をもつこと、(2)教師がNとの関係作り、集団作りをすすめることは、長期的にはクラスのまとまりや、規範の維持に役立っており、Rを学校に包含する力になりえることもわかった。これらの結果は、2つの国内学会でポスター発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、研究計画として挙げていた学校での実践関与型観察は、計画よりも1年間先行して開始することができたため、調査対象となった中学校の当該学年は今年度で3年生を迎えた。したがって、当初の計画よりもデータ収集は早めにおこなうことができている。分析については、これまで2年生終了時までのデータについて行なってきたが、どのような事象がおこったのかについての記述が主であり、それらの事象を統合的に説明する理論的考察については、まだまだ途上にある。したがって課題をもった生徒や、一般生徒の発達や、心身の健康にどのような意味をもつのかといったことについては不透明であった。今後はテーマを細かく絞り議論を展開していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
継続的に調査してきた中学校での観察は昨年度末で終了した。今年度は、まず、この中学校で得られた3年間を通した変化を記述する。昨年度までに2年間分の観察結果に基づく学会発表を行っており、それらの結果をふまえつつデータを追加して考察する予定である。と同時に、この中学校でえられた観察結果の特殊性、一般化可能性について探るため、公刊された実践記録を中心に、いくつかの事例を収集するとともに、何人かの学校関係者などから事例のヒアリングをおこなう。直接的な比較はできないものの、この作業をおこなうことによって当該中学校での観察結果をより広い文脈のなかで検討することが可能になり、妥当な結果を導くことができるようになると思われる。このようにして得られた分析結果を、日本心理学会、日本教育心理学会、日本発達心理学会などの国内学会において発表するほか、国内雑誌に投稿するべく準備をすすめていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
インタビューの文字おこし、および、資料収集における旅費、学会発表の旅費への使用を検討している。また、質的研究の分析ツールの導入も検討する。
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