研究課題/領域番号 |
24730708
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
松嶋 秀明 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (00363961)
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キーワード | 反社会的行動 / 学校とのつながり / 実践関与型観察 / リジリアンス |
研究概要 |
本研究課題では、入学当初より対教師暴力、授業エスケープなどの「荒れ」をみせつつ収束にむかった、ある中学校の1学年を対象とした実践関与型観察をおこなってきた。今年度は第3学年の終了までの観察、および、その後の教師へのフォローアップインタビューを終了したうえで3学年を通した分析を行なった。 これまでの分析では、荒れの収束に①教師の一般生徒への関わり、②学級集団のまとまりがもたらした効果について報告した。今年度は、こうした関わりが、問題生徒たちの学校生活にもたらすネガティブな効果についてもとりあげて考察した。すなわち、ネガティブな効果として、学級集団のまとまりが増すことで、教室に居場所を見いだせず、孤独感を深めた生徒がいたことを指す。こうした生徒は、第3学年では他校生との交友が増え、学校外での活動が増えた。これに対して、学校側は他校生とのつきあいを抑制するのではなく、むしろ教師もこれに交わるという(「管理する指導」に対して)「問題についていく指導」を行なった。こうした指導は、問題行動を結果的に黙認・放置することになるリスクをはらむが、少なくとも今回の事例では、そのことが生徒の生涯発達という観点からポジティブな効果をもたらした。こうした指導の成功は、直接的には、生徒指導教員の指導力が大きな意味をもったが、と同時に、学年教師集団が3年間培ってきた問題生徒との信頼関係が基盤となったと考察できた。 本年度は以上のような知見をもとに、本年は教育心理学会、心理学会、発達心理学会の3学会においてポスター発表を行ない、非行問題、あるいは社会的養護問題を共有する実践者や研究者と意見交換をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度も報告したとおり、当初、研究計画として挙げていた学校での観察は、計画よりも1年先行して開始できている。このため、今年度は3学年を通したまとめの作成をすることに注力することができている。ただし、取得されたデータは多様なテーマにわたっているため、ひとつの研究発表や、論文などで報告するためのまとめ方に工夫をする必要があり、また、複数のテーマについてひとつひとつ発表していく必要がある。本年は、第3学年のまとめを組み入れた全体像についての総論について主に発表したが、今後、各論にわたって理論枠組みとてらしあわせつつ、焦点をしぼったまとめを作成していく必要がある。さしあたって今年度は、リジリアンスという枠組みに注目した。リジリアンス研究の世界的リーダーの一人であるMichael Ungarの枠組みをわが国に紹介するとともに、彼の枠組みのなかで、本研究の成果の一端を紹介することを試みた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は上記のような研究から得られた知見をもとに、海外学会としてオーストラリアで9月末に行なわれるInternational Society of Cultural Activity Research(通称ISCAR)での口頭発表を行なう。同時に、国内、海外誌への論文投稿をするべく準備をすすめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度購入予定をしていた質的データ解析ソフトの発売が遅れたため、当初、予定していなかったが必要になった備品を購入するなどしたことと、旅費の算定が、当初見積もり額と異なっていたこと、小額を無理に使い切らなくてもよいとの方針に従ったことなどから差額がうまれた。 26年度にあらかじめ計画していた旅費や物品のほかに、国内旅費として活用する。
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