研究課題/領域番号 |
24730710
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
太田 拓紀 玉川大学, 教育学部, 助教 (30555298)
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キーワード | 学校紛擾 / 教育関係 |
研究概要 |
本研究は明治期の学校紛擾に焦点をあて、近代初期における教師-生徒関係の変容過程を明らかにすることが目的である。それにより、教師-生徒関係に潜む原初的な問題を実証的に再検討し、現代における関係性の危機を捉えなおす視座を得ることを目指している。平成25年度は学校紛擾の一事例を詳細に検討するとともに、昨年度から引き続き、学校紛擾の発生校とその事情について、各種メディアから把捉することに努めた。 事例研究としては、明治30年代の一中学校にて生じたストライキ事件を取りあげた。この時期の中学校は、全国的にも教師と生徒の社会的出自が乖離する時期であり、教師-生徒関係の軋轢が生じやすい背景がみてとれた。また、明治中期は近代的な教員養成システムによって輩出された教員が各地に続々と配置される頃でもあり、近代的な教育を経た教員と、明治以前の前近代的な教育的背景をもつ教員との間で、摩擦が生まれる土壌が生成されていた。以上の点が、この時期における学校紛擾の頻発に、大いに関係があるように推測された。この成果の一部については、すでに口頭発表を行っているが、昨年度から蓄積してきた理論研究の成果を踏まえながら、今後、さらなる口頭発表や学術論文として公表する予定である。 もう一点、今年度は学校紛擾の事例を、新聞メディアや学校史関連資料等を通じて捕捉するように努めた。従来の研究では、紛擾事例を把握するために教育関係雑誌が用いられてきた。しかし、明治以降の時期における新聞紙面のデジタル化が進んだことで、検索の幅が近年大いに広がっており、紛擾事例の捕捉が以前より容易になっている。これを活用するとともに、学校史、地方教育史関係の資料も用いて、学校紛擾のデータベースをおおむね構築することができた。この成果についても、口頭発表、学術論文にて今後発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学校紛擾の一事例を教師-生徒関係に焦点づけ、当事者の視点から検証することにより、これまでメディアや教育政策担当者の言説からしか把握しえなかった、紛擾の内実を明らかにすることができた。この点は、本年度の重要な課題と位置づけていたものであり、一定の成果として評価できよう。これを契機にして、研究の展望も大いに開けたといってよい。とはいえ、やはり事例研究には積み重ねが求められる。今後、豊富な資料が得られる他の事例についても、十分に精査する必要があろう。この作業を行うことにより、本年度の事例の位置づけがより明確になるとともに、学校紛擾の一般化、類型化に向けて大きく前進するものと思われる。 また、紛擾事例の再把捉の作業により、これまでの研究で言及されなかった紛擾の様相が明らかになってきた。また、データベースを構築することにより、学校紛擾の全体的傾向も浮き彫りになったと考えている。今後は、このデータベースをどのように活用、分析するかが大きな課題となる。とりわけ量的に分析することで、実証的に紛擾を描き出すことが求められよう。ただ、その具体的な方法については、現在検討中である。主に社会史などの手法に学びつつ、得られたデータベースを利用していかに成果に結びつけるかといった、アウトプットの方法を早急に研究する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の成果を踏まえながら、平成26年度では以下のように研究を進めていきたい。 ①教師-生徒関係に焦点づけた学校紛擾事例研究のさらなる蓄積:紛擾の事例として、平成25年度は地方の中学校のそれを取りあげた。しかし、地方と中央の学校では、それぞれ紛擾の様相を異にした可能性がある。また、中等学校としては、中学校のみならず、この時期においては師範学校などでも少なからず発生していたとされる。以上のように、中等学校の地域性や学校種に配慮しながら、新たな紛擾事例を詳細に検討していきたい。ただし、研究の成否は、対象の時期が古いこともあって、当時の学校関係資料や関係者の手記、回想がどの程度残っているかに強く依存する。これまでと同様、学校史、回想録、自伝など、多角的に資料を探索し、有効な知見を導きだせる事例を見いだしたい。その上で、本研究の特徴である、主に当事者(教師、生徒)の視点から、紛擾の様相を描き出すように努める。 ②学校紛擾発生校の量的分析と発生校における特性の把握:学校紛擾のデータベースをいかに活用し、量的なものとしてどのように結果を提示するかについては、有効な方法論を検討中である。ただ少なくとも、地域性でいえば地方で多かったのか、伝統校や生徒数の多い学校で多かったのかなど、学校の位置づけに着目して紛擾発生の様相を描き出す必要があるだろう。『文部省年報』や各県の『学事報告』などから基本的な学校データを得て、紛擾発生校の特徴を量的に描き出したい。その上で、歴史的なデータの分析手法を学びつつ、従来とは別の視角から新たな知見を導けるように工夫したい。 ③学校紛擾研究の総括:これまでの成果をふまえ、学校紛擾がなぜ、いかなる背景のもとでこの時期に頻発したのかについて、教師-生徒関係を軸に考察し、一定の解釈を提示したい。
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