平成25年度の研究成果は,次の通りである.第一に,「未完成な証明」とその認知的要因に関する先行研究を調べ,研究の成果と課題について知見を得た.「未完成な証明」は,生徒によって書かれたものと捉えられていた.また,「未完成な証明」を,誤りや飛躍を含む証明と捉える立場と,証明のアイディアや方針と捉える立場があった.本研究は,現状,前者の立場をとることにした.さらに,Boero(2001)による代数の証明問題の解決過程における「予期(anticipation)」の働きについて考察し,証明過程における「予期的思考」について知見を得た. 第二に,Heinzeらの研究における「仮説的架橋」と「調整」という視点をもとに,中学生の証明過程の考察し,「未完成な証明」を生成する中学生の認知的特徴を分析する枠組みを構築した.この枠組みに基づいて,対象とする中学生へインタビュー調査を実施し,その認知的特徴を同定した.その結果,「未完成な証明」を生成した中学生は,仮説的架橋と調整のいずれか一方の失敗だけでなく,仮説的架橋と調整の両方の失敗という認知的特徴があった. 第三に,前向き推論と後ろ向き推論を繋ぐ「推論III」を成功的に遂行できた生徒と,成功的に遂行できなかった生徒の証明過程を比較し,それぞれの生徒の認知的特徴,思考のパターンを考察した.その結果,両者の共通点として,証明の方針は立てられるということである。しかし,証明の方針に沿って実際に証明を構成する際に働く思考に違いがありそうだといことがわかった。具体的には,ある二つの角(あるいは辺)が等しいことを示す際に,直接等しいことを示すことができないときに,示そうとしている角(あるいは辺)と等しい別の角(あるいは辺)に転換しようという思考が働いている傾向があった.この思考を同定するのは今後の課題である.
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