研究課題/領域番号 |
24730747
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
桐原 礼 帝京大学, 教育学部, 講師 (10555311)
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キーワード | 音楽教育 / スペイン / 異文化間教育 / 移民 / 小学校 |
研究概要 |
本研究の目的は、スペインの音楽教育における異文化間教育的な取り組み、すなわち、外国につながりのある多文化児童生徒への対応について検討し、我が国の音楽教育への示唆を得ることである。スペインは、我が国同様に1990年代前半より急激に移民を受け入れ始め、我が国よりも急ピッチに多文化児童生徒への対応を進めている。音楽授業においても、こうした児童生徒と日々対峙する中で、音楽教員の試行錯誤や様々な配慮、指導上の工夫をみることができると考える。スペインの主として小学校音楽授業を対象とし、音 楽教員の配慮すべき点や、多文化児童生徒との相互作用に着目した音楽授業を成り立たせる要素について検討する。これにより、今後の我が国の教室における多文化共生に向け、児童間の積極的な関係性構築を実現させるための、音楽教員の資質および音楽授業のあり方について提示したい。 研究方法として、教育基本法などの法規や学習指導要領、音楽教育学における先行研究を収集・整理し、スペインにおける異文化間教育的な取り組みについて概観する。また、多文化化の進行が著しい州の一つであるムルシア州を対象とし、小学校音楽授業分析および音楽教員へのインタビューを行う。 本年度は、ムルシア州の小学校音楽教員に音楽授業のビデオ録画および過去の録画データの提示を依頼し、音楽授業分析とともに教員へのインタビューを行った。21事例が挙げられ、1.音楽授業時にみられる課題、2.音楽的な活動の効果、の大きく二つに分類しながら、教員の配慮すべき点や音楽活動の特徴について検討した。 研究経過について、日本学校音楽教育実践学会第18回大会(於:お茶の水女子大学)に参加し、口頭発表(個人)を行った。また千葉大学新倉涼子教授(異文化間心理学・多文化教育)より助言を受け、論文投稿に向けて論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、スペイン・ムルシア州の小学校音楽科を研究対象としている。音楽授業のビデオ分析、音楽教員へのインタビューを通して、音楽授業時にみられるさまざまな課題および、音楽的な活動の特徴・効果について、具体的な事例を挙げて検討することができた。 音楽授業時にみられる課題としては、児童間の境界線の解消、教員自身の無意識的な振る舞いへの気づき、宗教上の理由への対応などの項目が挙げられた。音楽的な活動の効果については、指導法の工夫としてペアやグループ活動を組み入れることにより、協同学習による信頼感や達成感を感じさせたり、思いやりや愛着の念を抱かせるなど、相手への心理的距離を縮める心的変化を確認することができた。また教材化および教材選択の工夫として、自国および移民出身国の音楽を取り上げることにより、児童が自尊感情を高めたり、互いのルーツや文化に関心を高めるなどの効果を確認することができた。これらは、来年度のさらなるインタビュー調査における質問項目を立てるための重要なデータとなった。 また、音楽教育学における先行研究を整理し、異文化間教育的な取り組みについて概観した。本年度、法規や学習指導要領の分析を並行して行う予定であったが、新たな法規が本年度途中に出されたことから、これらの研究は来年度前期に行うこととしたため、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
法規および学習指導要領の分析、音楽教育学における先行研究のさらなる収集・分析を行う。スペインの音楽教育学における異文化間的な取り組みの方向性について概観する中で、教員の配慮すべき点や、音楽的な活動の特徴などについて検討する。 また、スペインの小学校音楽教員および大学音楽教員の研究協力を得ながら、スペインの小学校音楽教員数名にインタビュー調査を行う。音楽授業時にみられる課題は様々であるが、特に、児童間の境界や偏見・差別的な行動の様子およびこれらの解決法に向けた教員の工夫、積極的な関係性構築に向けた児童の心的変化の様子などについて、事例を収集・分析したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
スペイン語翻訳者への謝金額が3月末まで明確に提示できない部分があり、多少の余裕を持たせて研究費を使用していたため。 次年度の謝金として使用する予定である。
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