本研究は師範学校から新制大学への再編における音楽教育実践に関する制度・内容・実態を明らかにすることが目的である。 暫定教科書の文部省『師範音楽 本科用』の奥付には、1946(昭和21)年6月22日印刷、26日発行、27日文部省検査済と記され、連合国軍総司令部の許可を得ている。『師範音楽 本科用』では、戦前の『師範音楽 本科用巻一』において含まれていた「儀式唱歌」「基礎練習」「音楽理論」「日本音楽史」「附録」が削除され、「歌曲」しか掲載されていない。『師範音楽 本科用巻一』においては、22曲の歌曲が掲載されていたのに対し、『師範音楽 本科用』では、10曲に削減され、その内の2曲は歌詞の修正が行われた。 さらに下記の5ケースに分類し、再編の違いに伴う教員養成における音楽教育実践の特色を明らかにした。i師範学校→単科の学芸大学 事例:東京学芸大学、ii師範学校+専門学校→総合大学の学芸学部 事例:鳥取大学、iii師範学校+高等学校→総合大学の教育学部 事例:新潟大学、iv師範学校+高等師範学校→総合大学の教育学部 事例:広島大学、v師範学校+帝国大学→総合大学の教育学部 事例:東北大学 中でもiiiに分類される新潟大学は、新潟第二師範学校から新潟大学教育学部高田分校へと再編され、全国唯一の「芸能学科」が設置された。高等学校の音楽教員養成を目的とし、「声楽、鍵盤楽器、弦・管楽器、作曲、音楽学」の専攻に分かれての専門的な指導が展開された。「教育実習」は7週間と長期間課せられ、高等学校においても実施されていた。また、新潟第二師範学校の音楽教員が中心となり、「オリオンコール」と呼ばれる市民合唱団が組織され、音楽活動が盛んであった。新潟大学昇格後においても「メサイア演奏会」「定期演奏会」「卒業演奏会」「弦楽演奏会」等が定期的に開催され、地域の音楽文化への啓蒙が図られていた。
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