研究課題/領域番号 |
24730762
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
菊池 紀彦 三重大学, 教育学部, 准教授 (20442676)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超重症児 / 未就学 / 特別支援教育 |
研究概要 |
新生児医療,医療技術の進歩等により若年層の超重症児は増加傾向にある。学校教育においてはこうした子どもたちの生活実態を踏まえた具体的な教育支援方法の開発と構築が喫緊の課題である。しかし,超重症児の実態に関する報告は乏しく,とくに幼児期における生活実態についてはほとんど知られていない。こうした情報の欠如は就学時の移行支援を困難にするだけでなく,就学後の教育的支援にも負の影響を及ぼすことが推察された。今年度は、以下の2点について実施した。まず、1)医療機関・重症児施設(施設等)に入所または通所している未就学の超重症児の生活実態を把握するために,施設等スタッフを対象として質問紙調査を行った。結果,未就学の超重症児99名について回答が得られた。子どもたちの状態像の特徴として,反応の乏しさから指導目標の設定がむずかしいと思われる超重症児は約8割を占めることが明らかとなり,就学後の教育支援においては学校と施設等とのさらなる情報共有の必要性が示唆された。また,自立支援法の改正以降,入所施設から通所施設に移行した施設等の存在が確認され,在宅未就学児が増加していることが推察された。次に、2)研究協力機関に入院する超重症児1名を対象に教育的実践(主に触感覚、嗅覚を中心とした働きかけ)を行った。対象児とのかかわり当初、働きかけに対する応答が認められなかったものの、かかわりを継続していく中で、眼球の微細な動きやそれに伴う心拍数の変化を見いだすことができるようになった。これらから、超重症児にとって応答しやすい環境を整えること、かかわり手が超重症児の微細な動きに着目することや、バイタルサインにも着目し、それらの関連性について検討することが、教育実践を行う上での手がかりを得ることにつながると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は以下の3点である。すなわち、刺激や働きかけに対して「反応がない、乏しい」という特徴を有する未就学の超重症児について、1)医療機関、重症児施設を対象に調査を行うことにより、彼らの生活実態を明らかにすること、2)実態調査に加え、超重症児に対する教育的実践を行うことにより、医療・教育・福祉の関係機関の連携のあり方を提言すること、3)教育実践中における脳血流動態と心拍数変動、酸素飽和度が児の微細な行動表出とどのように関連しているかを明らかにするとともに、働きかけに対する反応が乏しい超重症児に対する教育支援の方略を検討すること、である。今年度については、目的の1)および2)について実施した。1)については、全国492施設に調査を実施し、回収した内容について基礎的データの整理を行った。この結果については、日本特殊教育学会第51回大会で報告する(発表申し込み済み)。2)については、研究協力機関を週に1度訪問し、保護者や研究協力機関の職員と連携しながら対象児の教育実践を行ってきた。かかわりを継続する中で、超重症児の支援のあり方についての考察を深めることができた。今後も実践を重ねるなかで、教育支援方略の検討を行いたいと考えている。また、本研究に関連した論文「重症心身障害児(者)と家族に対する地域生活支援の現状と課題」(単著)が特殊教育学研究に掲載された。以上のことから、平成24年度の取り組みについては達成しており、研究期間全体においてもおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については以下の通りである。まず、1)平成24年度に実施した全国調査の結果について詳細な分析を行う。具体的には、指導内容、指導上の困難な点、工夫点、支援機器の使用状況、取り組むべき課題等についてである。次に、研究目的の2)および3)についてである。超重症児への支援については、平成24年度同様、週に1度研究協力機関を訪問し教育的実践を行う。具体的には、a)直接的な働きかけ(ことばがけ、マッサージなどの触刺激、匂いの呈示、ベッド揺らし等)を行う。次に、b)対象児に行動発現が見られた場合に対するフィードバックを行う。すなわち、対象児のわずかな動きを活かせるスイッチ(AAC; 例えばピエゾニューマティックセンサースイッチなど)を用いて、身体のいずれかに動きが生じれば装着しているスイッチが働き、種々の刺激(振動刺激等)が対象児に与えられるものである。対象児に焦点をあてた働きかけの場面を2台のビデオカメラにて録画し、ビデオ編集機および行動観察分析装置(既設の行動コーディングシステム)を使用して時間軸に沿った行動の分析を行う。さらに、生理学的指標として既設の2chNIRSおよび心拍数変動、酸素飽和度を取り上げる。2chNIRSは対象児の前額部に装着し、かかわりの時間における脳血流の変化を捉える。心拍数変動については、ポータブル心拍変動測定器を対象児に装着し、実践中における心拍数変動を記録する。その後、対象児のかかわりの場面とのマッチングを行う。加えて、c)超重症児の教育支援方略の構築に資するために脳血流動態からの検討を実験的場面において行う。これについては、単一事例にとどまらず、複数の対象児に実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、超重症児に対する教育的支援に使用する消耗品(嗅覚刺激呈示のための薬品等)は既存のものを使用していた。そのため、当初予定していた消耗品請求は行わなかった。平成25年度については、これまで使用していた消耗品が無くなったため、新たに請求をする予定である。
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