研究課題/領域番号 |
24730762
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
菊池 紀彦 三重大学, 教育学部, 准教授 (20442676)
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キーワード | 超重症児 / 特別支援教育 / 嗅覚受容評価 |
研究概要 |
今年度は、2名の超重症児を対象にNIRSおよび心拍数変化(HR、HRV)から、嗅覚刺激の受容状態と覚醒水準の維持・向上についての検討を行った。 対象児Aは、嗅覚刺激の呈示後、眼窩前頭部におけるOxy-Hbの有意な増加は認められなかった。しかしながら、HR水準の有意な上昇やHRVの有意な変動が認められていたことから、嗅覚刺激の呈示が対象児Aの覚醒水準の上昇に何らかの影響をもたらしていた可能性は否定できない。今後はMRI画像の検証も踏まえた上で、嗅覚刺激の感覚受容と覚醒水準との関係について検討を行う必要がある。 対象児Bは、嗅覚刺激の呈示後に眼窩前頭部におけるOxy-Hbの有意な増加や、HR水準の有意な上昇、さらにはHRVの有意な変動が認められた。嗅覚刺激の呈示に伴うOxy-Hbの有意な上昇は、健常成人の嗅覚応答の様相(Shoji, H.ら, 2007)と同様の結果を示していたことから、対象児Bの嗅覚情報の受容を反映していたと考えられる。また、HR水準の有意な上昇や、HRVの有意な変動が認められたことから、覚醒水準の上昇にも寄与していることが考えられた。 2名の超重症児は、嗅覚刺激に対する眼窩前頭部のOxy-Hbの変化について、異なった結果を示した。一方で、両者ともHR水準の有意な上昇やHRVの有意な変動が認められていた。ただし、対象児A、対象児BのHRV変動値は1%~3%台で推移しており、健常乳幼児のHRV変動値(3%~4%台)(片桐ら, 1999)と比較すると低い値であった。この低さは、人工呼吸器による影響や、重篤な脳障害に起因している可能性があると考えられる。こうした状況のなかでも、嗅覚刺激の呈示が対象児A、対象児Bの覚醒水準の上昇に寄与している可能性が認められたことは、超重症児に対する教育支援への応用の可能性が示されたという点において一定の意義があろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は以下の3点である。すなわち、刺激や働きかけに対して「反応がない、乏しい」という特徴を有する未就学の超重症児について、1)医療機関、重症児施設を対象に調査を行うことにより、彼らの生活実態を明らかにすること、2)実態調査に加え、超重症児に対する教育的実践を行うことにより、医療・教育・福祉の関係機関の連携のあり方を提言すること、3)教育実践中における脳血流動態と心拍数変動、酸素飽和度が児の微細な行動表出とどのように関連しているかを明らかにするとともに、働きかけに対する反応が乏しい超重症児に対する教育支援の方略を検討すること、である。平成24年度については、目的の1)および2)を実施した。平成25年度については、目的の2)および3)について実施した。2)については、平成24年度に引き続き、研究協力機関を週に1度訪問し、保護者や研究協力機関の職員と連携しながら対象児の教育実践を行ってきた。かかわりを継続する中で、超重症児の支援のあり方についての考察を深めることができた。3)については、2)と同様に研究機関に訪問するなかで、NIRSおよびHRの計測を行った。研究の成果については、三重大学教育学部附属教育実践総合センターの研究紀要にて発表した。 今後も実践を重ねるなかで、教育支援方略の検討を行いたいと考えている。以上のことから、平成25年度の取り組みについては達成しており、研究期間全体においてもおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については以下の通りである。超重症児への支援については、平成25年度同様、週に1度研究協力機関を訪問し教育的実践を行う。具体的には、直接的な働きかけ(ことばがけ、マッサージなどの触刺激、匂いの呈示、ベッド揺らし等)を行う。特に、今年度については、以下に留意をしながら支援を進めて行くつもりである。すなわち、本人のバイタルサイン(心拍数)をフィードバックするような働きかけである。従来の支援を振り返ると、かかわり手が対象児に対して、一定の刺激を呈示し、その刺激への応答状況についての分析を行っていた。今年度はこうした取組に加え、本人のバイタルサイン(心拍数)を活用した取組を実施する。そして、対象児に行動発現が見られた場合に対するフィードバックを行う。すなわち、対象児のわずかな動きを活かせるスイッチ(AAC; 例えばピエゾニューマティックセンサースイッチなど)を用いて、身体のいずれかに動きが生じれば装着しているスイッチが働き、種々の刺激(振動刺激等)が対象児に与えられるものである。対象児に焦点をあてた働きかけの場面を2台のビデオカメラにて録画し、ビデオ編集機および行動観察分析装置(既設の行動コーディングシステム)を使用して時間軸に沿った行動の分析を行う。さらに、生理学的指標として既設のパルスオキシメーターを対象児に装着する。心拍数変動、酸素飽和度を取り上げ、実践中における心拍数変動を記録する。その後、対象児のかかわりの場面とのマッチングを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
別に記載したとおり、研究は順調に推移している。超重症児に対する教育支援に使用する物品(AACなどの種々のスイッチ等)については、平成25年度に購入をした。購入をした物品について、対象児の評価を行いながら使用していたが、新たに物品を使用する必要は生じなかったため、予算の繰り越しを行った。 今年度については、本人のバイタルサインを活用した教育支援を展開する予定でいる。そのための物品が必要となり、具体的には音楽関連で用いられているBPMを使用できるアンプ、BPMを可変できるパソコンソフトなどを用いたかかわりを行う予定である。さらに、かかわり手が、対象児をどのくらいの頻度で見ているかを測定するための物品としてウェアラブルカメラの購入をする予定である。研究の成果の発表については、3つの学会(日本特殊教育学会、日本重症心身障害学会、日本育療学会)にて行う予定であり、そのための旅費として使用する。
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