研究課題/領域番号 |
24740013
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡崎 亮太 大阪大学, 情報科学研究科, 特任助教 (20624109)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 極小次数付き自由分解 / 離散モース理論 / 組合せ論的可換代数 / CW複体 |
研究概要 |
平成24年度は,以下の研究を行った. 1.Borel fixed イデアルの 2つの極小次数付き自由分解(以下,自由分解),「Eliahou-Kervaire 自由分解」と関西大学の柳川浩二氏との共同研究で得た「新しい自由分解」について,柳川氏と共同で研究を行った. 両者は共に離散モース理論を利用して構成可能で,複体としては同型であるが,その違いは時として付随する幾何の構造の違いとして現れる. 本研究では,T. Clark 氏のアイデアを利用し,「対応する Borel fixed イデアルがコーエン・マコーレーである時,これらの自由分解には共に閉球が付随する」ことを示した. この様に自由分解に付随する幾何の構造を具体的に決定した結果は,他では殆ど見られず,今回の結果はその先駆的なものといえる. これらの結果は,各研究集会で発表を行い,現在論文として執筆中である. 2.Ovidius 大学の V. Ene 氏との共同研究で,「多項式環において,単項式イデアルの根基を取る操作が,多重次数付き加群の成す圏のある充満部分圏の間の完全関手として捉えられる」ことを発見し,「コーエン・マコーレー性等の性質が本関手で保たれる」ことを示した. この関手は単項式イデアルに関するJ.Herzog氏らによる結果の一般化や, 彼らの結果の非常に簡潔な証明をも与える. 本結果は,論文として纏め,学術雑誌に投稿した(現在審査中). 3.多項式環上の多重次数付き加群の(極小とは限らない)有限自由分解を構成することに成功した. 既に,同様の結果は A. B. Tchernev 氏により得られていたが,今回構成した例は,より具体的で「代数的離散モース理論」の適用がし易いと思われ,極小次数付き自由分解を求める研究への寄与が大いに期待できる. 本結果は,ルーマニアでの招待講演で発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,(1)「離散モース理論を利用した極小次数付き自由分解(以下,自由分解)を求める2つの手法,「代数的手法」と「幾何的手法」の統合」と,(2)「それを利用した自由分解の構成」を課題として取り組むことを目標として研究を行ってきた. 当該年度は,研究の初年度であり研究の下地を作るという目的もあった. 研究の中で,当初の予想通り,幾何的手法は,幾何的情報を無視すれば,代数的手法の一部として捉えられることを確認したが,代数的手法を利用して自由分解を構成した際に,その後如何にして幾何的情報を復元するかが次なる課題となった. 研究実績の概要で述べた,Borel fixed イデアルの自由分解に関する研究,及び,その結果では,幾何的情報を復元する方法を提示し,実際にこの方法が有効であることを示しており,上記の課題(1)の目標を達成する礎を気付いた点で,非常に重要なものといえる. 上記の成果の他に,当該年度では,多項式環の多重加群の極小とは限らない有限の自由分解を構成することにも成功した. 同種の極小とは限らない自由分解と比較して,この自由分解は,モース理論を利用した上記の手法を適用するのに有利であると思われる. 課題(2)では,まだ具体的な成果を挙げられてはいないが,上記自由分解の構成は,今後の研究推進・発展に大きく寄与する成果である. 以上の様に,平成24年度は,本研究課題を達成するための基礎を着実に固め,次年度のステップへ進むための準備を整えることが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の Borel fixed イデアルに関する成果では,Cohen-Macaulay な Borel fixed イデアルの極小次数付き自由分解に付随する CW複体を決定したが, Cohen-Macaulay とは限らない一般の場合はどうなるかが課題として残っている. 本課題は,上記の Cohen-Macaulay の場合を応用することで解決出来ると確信しており,平成25年度は,まずこの課題を解決しBorel fixed イデアルを対象にした研究を完結させることから着手する. その後,前年度の研究で得た多項式環上の多重次数付き加群の(必ずしも極小でない)有限次数付き自由分解を利用し,計算機による具体的な計算結果を参考にしつつ,(1)「極小次数付き自由分解の具体的な記述の模索」に本格的に取り組んでいく. また,当該年度からは,(2)「離散モース理論を利用した自由分解を求める手法の可換代数に現れる重要な(コ)ホモロジーの計算への応用」にも着手していく.課題(1)では,まずは上記の component-wise linear なイデアル等,性質が良く分かっているイデアルを対象に研究を行う. 課題(2)では,スタンレー・ライスナー環のCech複体に焦点を当て,そのコホモロジーとして現れる局所コホモロジーの計算への応用を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
3年前よりイタリアで毎年行われ,今年も開催されれば参加をと考えていた研究集会が,平成24年度は残念ながら開催されず,その影響で当該年度に未使用額が生じた. 次年度(平成25年度)から,研究代表者の所属が変更となった為,繰越金の一部は異動先での研究環境を整える為の書籍の購入費に充てる. ここ最近の可換環論研究者の異動で,山口大学には村井聡氏,大関一秀氏,九州大学には渋田敬史氏と,研究代表者の異動先近辺に若手の可換環論研究者が多数おり,繰越金の残りは,上記研究者との情報交換の為の旅費として利用する. 次年度の研究費の内,繰越金以外は当初の予定通りに,書籍購入や出張費として活用する.研究計画については,平成24年度の Borel fixed イデアルに関する成果から新たに生じた課題に取り組むこと以外は当初の計画通りに進めていく.
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