今年度は、前年度までに博士前期の院生の船田祐希氏とともに取り組んだE_8格子から定義される球函数(調和多項式)付きテータ級数の構成法について口頭発表をしたり、船田氏の修士論文(日本語)を部分的に英文にした。これは前年度の報告にあるようにE_8格子の自己同型群による不変な調和多項式を用いて「能率的に」テータ級数を構成しようとするものである。この研究は、また別の博士前期の院生加藤義久氏によって継続され、特に正規化されたヘッケ同時固有カスプ形式を与える不変調和多項式のノルムを計算して興味ある結果を得た。なお、加藤氏はE_6格子の場合にも同様の手法でテータ函数の構成を行ったが、一部E_8格子のときには現れなかった現象に遭遇したのは興味深い。この手法は、現時点では一変数の保型形式にのみ有効であるが、これを多変数の保型形式(Siegel保型形式)に拡張することができないか考察した。多変数の場合、不変式に関する既存の結果が直接は適用できないので、その証明手法を分析して不変式に関するを拡張するか、自己同型群の生成元(それはE_8格子の場合わずか8つと自己同型群の位数に比べて極めて小さい)と計算機によって計算する手法の2つが取りうる道であるとの考えに達した。後者の方法を進めるには、プログラミングに習熟するかやや高価な数式処理ソフトを使う必要があることも分かったので、今後も研究を継続する。なお、上記で述べた講演の後、別の動機から類似の研究がランクの小さな格子についてなされていることを知ったのも有意義であった。
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