研究課題/領域番号 |
24740018
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
山崎 義徳 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (00533035)
|
キーワード | ゼータ関数 / ゼータ正規化積 / Ramanujan グラフ |
研究概要 |
本年度はグラフのゼータ関数(ゼータ正規化積の有限類似)に関する以下の二つの研究を行った。一つ目は、昨年度に引き続き Ramanujan Cayley グラフに関する研究である。Ramanujan グラフとは、対応する Ihara ゼータ関数が Riemann 予想を満たす、というグラフ理論だけでなく数論においても非常に重要なグラフのクラスである。群が与えられたときに、その Cayley グラフで完全グラフに近いものがどこまで Ramanujan グラフであり続けるかという問題を考える。この問題に対してまずは巡回群の場合に解答を与え、論文にして投稿した。次に非可換だが比較的構造が単純な Frobenius 群の場合を考え、特別な場合である二面体群の場合に巡回群の場合と同様の結果を得た。以上は愛媛大学の平野幹氏、堅田晃平氏との共同研究である。二つ目は離散トーラスに関するスペクトルゼータ関数の研究である。一般に、グラフのスペクトルゼータ関数 (おおよそ Ihara ゼータ関数を対数微分したもの) を Taylor 展開することで、そのグラフ上の素な閉路 (素測地線) の個数が原理的には計算できる。しかし、具体的に個数を与える場合、どうしてもグラフの固有値の明示的な値が必要となる。それに対して本研究では、離散トーラスという特別なグラフの場合にそれ上の熱核を用いたスペクトルゼータ関数の別表示を与え、固有値を計算することなく素な閉路の個数を明示的に与える公式を導いた。具体的には、それは Lauricella の多変数超幾何多項式 (多変数 Jacobi 多項式) の有限和で表される。この結果については現在論文執筆中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き Ramanujan Cayley グラフの研究を行ったが、非可換群でも同様の問題を考えることができたことの意味は非常に大きい。実際、可換群を扱っていただけでは見えなかった問題も見えてきたため、今後真に考えなければならない点が明確となった。一方で、Frobenius 群という単純な場合の議論は、今後群をさらに複雑なものに取り換えた場合の参考になることが十分期待される。また、離散トーラスのスペクトルゼータ関数の研究も示唆的であり、他のグラフに対しても熱核の議論が有効に働くことを期待させる。また、その場合に、関連してどのような特殊関数が現れるか、また、連続化するとどうなるかなど、これまでのグラフ理論にはない、特殊関数の視点からのグラフ理論へのアプローチも期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
まず Ramanujan Cayley グラフの研究に対してだが、これまでに得られた手法や結果を用いて、今度は、比較的構造がよくわかっている有限体上の二次の一般線形群や特殊線形群 (またはそれらの射影化) の場合に同様の問題を考え、非可換群の場合の問題設定を再確認する。さらに、巡回群の場合を踏まえ、付随して現われるであろう数論の問題を整理し、実際にその問題に取り組む。また、離散トーラスのスペクトルゼータ関数の研究では、素な閉路の個数を与える公式を得たが、その公式の細分化・精密化を行う。具体的には、上記に現れる多変数 Jacobi 多項式一つ一つがどのような閉路を数えているかについて研究する。さらに、連続化を行い、実トーラスのスペクトルゼータ関数および付随するゼータ正規化積との関係について調べる。より詳しく、特殊関数のレベルでどのような極限公式が得られるかを研究する。
|