研究課題/領域番号 |
24740027
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
山内 博 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (40452213)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 頂点作用素代数 / 3互換群 / ヴィラソロ代数 / 共形場理論 |
研究実績の概要 |
これまでに引き続き頂点作用素代数上に3互換群の作用を実現する研究を行った。ヴィラソロ代数のフュージョン規則を用いて頂点作用素代数上に対合を定義し,それがいつ3互換性を持つのか調べるのが本研究の基本的な方針であり,今年度はこの研究を主に行った。一つの自己同型を定めるヴィラソロ元は一般に一意ではなく,自己同型群を頂点作用素代数の部分構造を用いて記述するには適切なヴィラソロ元とその対応関係を定式化する必要がある。モンスター群の 2A 元とムーンシャイン頂点作用素代数の c=1/2 ヴィラソロ代数や,ベビーモンスター群の 2A 元と対応する頂点作用素代数の c=7/10 ヴィラソロ代数は宮本の自己同型により一対一対応が成り立つことが知られていた。この対応は自己同型群と頂点作用素代数構造を結びつける非常に強力なものであるが,一方で他の群とそれが作用する頂点作用素代数を考えた場合,ここまで強い対応関係は成り立たない可能性があることが分かってきた。そこで中心化群の作用を含めて自己同型とヴィラソロ元の間の対応関係を考えたコンウェイ・宮本対応の概念を明確にし,これを定式化した。この対応関係は上記以外の例でも成り立っており,また自己同型に対応するヴィラソロ元を指定する上では中心化群の作用を考える必要があるため,この定式化はとても自然である。平成24年度に得た,ヴィラソロ代数のユニタリ表現を用いて系列的に3互換群を構成する結果は,与えられた頂点作用素代数上の部分群として3互換群の系列を記述するものであるが,部分群を考えた場合,中心化群が小さくなるため,もともとの頂点作用素代数では上記のコンウェイ・宮本対応は成り立たない。そのため部分群に応じて交換団部分代数をとる必要があるが,作用域である頂点作用素代数を小さくすると今度は宮本の自己同型の一部が自明になる可能性がある。この問題に引き続き取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,課題申請時では以下の流れで研究を進める予定であった。 (1): W(4/5)から生じる対合が作る3互換群は直交群になることの証明 (2): 格子頂点作用代数の不動点部分代数において対合を作り出す W(4/5) の分類 (3): モンスター単純群の3-シロー群による特徴付けに現れる頂点作用素代数の具体的構成 (4): (3) にある頂点作用素代数の構造および表現の解析,特に Z[1/3]-形構造の存在の探求 (5): (4) に基づいたムーンシャイン頂点作用素代数の Z3-軌道体構成法と整形の研究 (1), (2), (3) に関しては Ching-Hung Lam 氏と共同研究を行い,以下の成果を得た。シグマ型の中心電荷 4/5 拡大ヴィラソロ元を含む頂点作用素代数の系列的な構成を与え,このような頂点作用素代数が位数 4 の有限体上の符号を用いて一般的に構成できることを示した。特にヘキサコードに付随した頂点作用素代数の構造を詳細に調べ,コクセター・トッド格子に付随した頂点作用素代数の不動点部分代数の自己同型群はモンスター群の 3 局所群に現れる標数 3 型の直交群がシグマ型の中心電荷 4/5 拡大ヴィラソロ代数の対称性から実現できることを明らかにした。これを論文にまとめ,Journal of Algebra に投稿し,受理・出版された。また,ムーンシャイン頂点作用素代数との関係については,Ching-Hung Lam と Hsian-Yang Chen の両氏が関連した研究を行い,我々が構成したヘキサコードに付随する頂点作用素代数を用いて Z3-軌道体構成法を実行し,ムーンシャイン頂点作用素代数が構成できることを示している。この成果は上記 (4), (5) を研究する上で基礎となる結果であるが,申請者の結果を土台としており,今後の更なる発展が見込める。
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今後の研究の推進方策 |
各3互換群の互換類に対応する中心電荷を決定するにあたり,フュージョン規則の対称性から導かれる宮本の自己同型と頂点作用素代数構造との関係を定式化したコンウェイ・宮本対応を中心にして研究を進めることが重要であることがこれまでの研究から明らかになってきた。中心電荷 1/2 および 4/5 のヴィラソロ代数に付随するシグマ型自己同型の3互換性とそれらが生成する3互換群については多くの知見が得られているが,他のユニタリ系列に属する中心電荷に対してはいくつかの個別の例が知られているだけであり,どのようなときに斜交型および直交型になるのかについてはあまりよく分かっていない。最近,連続するユニタリヴィラソロ代数の表現は N=1 超ヴィラソロ代数の表現と密接に関係することが分かったので,この観点から3互換群のクラスを決定できないか研究を進めたい。その際,N=1 超ヴィラソロ代数のツイストセクターであるラモン代数の表現論も整備する必要がある。ラモン代数の表現では通常,Z2-次数付きの表現が考えられていたが,ユニタリヴィラソロ代数との関係を調べるには Z2-次数を仮定しない表現論が必要となる。頂点作用素超代数の観点からこの表現論も整備する。 ムーンシャイン頂点作用素代数はヘキサコードに付随した頂点作用素代数を用いて Z3-軌道体構成法を行い,構成できることが分かっている。そのためヘキサコード頂点作用素代数の単純カレント拡大で不変な整形を構成できれば求める整形が得られるものと考えられる。こちらもこの方針で研究を進めていく。
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