研究課題/領域番号 |
24740028
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
三鍋 聡司 東京電機大学, 工学部, 助教 (30455688)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コホモロジー |
研究概要 |
フロベニウス多様体とは、平坦な計量を持つ多様体であって、各点の接空間が可換な結合代数の構造を持ち、さらにその代数構造と平坦計量が様々な整合性の公理を満たすものである。これは2次元の位相的場の理論の族を記述する幾何構造としてドゥブロビンによって90年代初頭に定式化されたもので、代表的な例としては、シンプレクティック多様体の量子コホモロジー、カラビ・ヤウ多様体の複素構造の(拡大)モジュライ空間、孤立特異点の普遍開折の底空間などがある。この3種類の例はいずれもミラー対称性の研究において重要である。 平成24年度の主な研究実績は、フロベニウス多様体の一般化である混合フロベニウス多様体という概念の導入である。これは小西由紀子氏との共同研究で導入したもので、局所カラビ・ヤウ多様体と呼ばれる非コンパクトなカラビ・ヤウ多様体 (その典型例はファノ多様体の標準直線束の全空間である)のミラー対称性(局所ミラー対称性)の定式化において自然に現れると期待される構造である。混合フロベニウス多様体は、各点の接空間が代数構造を持つという点ではフロベニウス多様体と同じだが、平坦計量が接空間全体では定義されず、各接空間に指定されたイデアルの飽和フィルターの逐次商にのみ存在する点でフロベニウス多様体とは異なる。これは、局所ミラー対称性で現れる混合ホッジ構造をモデルとした定式化であり、混合フロベニウス多様体はフロベニウス多様体のある種の極限になっていると思われる。論文ではそれを次のような形で示した。まず、冪零元を持つフロベニウス多様体から、商構成という方法によって自然に混合フロベニウス多様体が得られる。その応用として、局所カラビ・ヤウ多様体のグロモフ・ウィッテン不変量によって定まる量子コホモロジーが混合フロベニウス構造を持つことが示される。この研究は現在も進展中であり、今後の発展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は混合フロベニウス構造という新しい概念の研究を行っていたので、リーマン面のモジュライ空間に関する研究は当初の予定通りには進まなかった。しかしながら、種数がゼロの点付きリーマン面のモジュライ空間のコホモロジーを対称群の表現空間として決定する問題については、査読結果を受けた修正の後に論文は受理となり、研究を完成させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、種数が正の場合の点付きリーマン面のモジュライ空間のコホモロジーの研究を進めると同時に、混合フロベニウス多様体の研究も進めていきたい。フロベニウス多様体、特に量子コホモロジーは、グロモフ・ウィッテン不変量の重力子孫を考えることによって、点付きリーマン面のモジュライ空間のコホモロジーと密接に関係している。混合フロベニウス多様体の場合にも同様の関係が発見できれば、可積分系の理論との繋がりが現れることが期待でき、大変興味深いと思われる。今後はこの方向にも研究を拡げていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費については、今年度と同様に、主に物品費および旅費として使用する予定である。物品費としては数式処理ソフトおよび書籍の購入を検討している。旅費については5回程度の国内出張を予定している。日程の調整がつけば、海外の共同研究者のもとを訪問するか、あるいは日本に招聘するかして、研究打ち合わせを行いたいとも考えている。また、12月に京都大学数理解析研究所の短期共同研究として行われる研究集会「ミラー対称性の展望」の世話人の1人であるので、必要に応じて研究会開催のための費用としても使用したいと考えている。
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