研究課題/領域番号 |
24740034
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 淳也 東北大学, 情報科学研究科, 助教 (10361156)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ラプラシアン / 固有値 / 微分形式 / 多様体の崩壊 / 小さい固有値 / 特異点 |
研究概要 |
Riemann 多様体上の Laplacian の固有値は,多様体の位相的・幾何学的情報を多く含んでおり,その情報を知ることは大変重要な問題である.関数に作用する Laplacian ではその幾何学的性質は良く分かっているが,微分形式に作用する場合 (Hodge-Laplacian) では殆ど分かっていない.その最大の原因は,関数の場合では現れない位相的かつ解析的な難しさにある.しかし,その困難な箇所に多様体のトポロジーを反映した興味深い現象が現れるため,その原因を解明することが本研究の最大の目標である. そのための有力な方法は,Riemann 多様体を変形(崩壊や退化)した際に,対応する Laplacian の固有値と固有形式の挙動・極限を調べることである.その具体的な場合として,研究代表者は Colette Ann'e 氏(フランス,ナント大学)との共同研究で,2つの Riemann 多様体の連結和を取りその一方を1点に潰す崩壊に対して,対応する固有値と固有形式の収束を示した. 本年度はこの研究に引き続き Colette Ann'e 氏と共同で,連結和を一般化された連結和に拡張した場合の研究を行った.ここで一般化された連結和とは,2つの多様体の貼り合わせを球面から一般の多様体に拡張して得られる物である.この場合の特徴は,貼り合わせる多様体のトポロジーが複雑になるため,球面の時では起こらなかった現象が起こることである. 具体的には,トポロジーの状況に応じて固有値が 0 に収束する小さい固有値が現れること,そして,小さい固有値に対応する固有形式で極限空間に現れる特異点にノルムが集中する物が現れることが分かった. 特に,固有形式が特異点へ集中する現象は,我々の研究により初めて明らかにされた全く新しい現象であり,Hodge-Laplacian の研究において大きな飛躍である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同じ境界を持つ2つの Riemann 多様体をその境界で貼り合わせ,一方の多様体を潰すという一般化された連結和の崩壊に対して,対応する Hodge-Laplacian の固有値と固有形式の極限を明らかにすることを目標に研究を行った. 当初は,本年度中に研究成果を出し,さらに,その成果を学会にて発表する予定であった.しかし,一般化された連結和の崩壊において,小さい固有値が現れる原因を正確に捉えることに難航した.とりわけ,対応する固有形式のノルムが特異点に集中する場合が,当初の予想を上回る困難となり,その解明に多くの時間と労力を費やした. 幸いその努力が実り固有形式の集中現象が解明でき,一般化された連結和の場合を完全に解決することが出来た.時間は掛かったが,その解明のために得た技術や知見は,次年度以降のより一般の場合の研究において大いに役に立つことも分かった. 従って,当初想定したよりも難しい問題を解決することが出来たので,学会での発表が出来なかったが,研究の進捗状況としては良い状況である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の一般化された連結和の崩壊の研究において,大きな困難であった小さい固有値に対応した固有形式の特異点への集中現象を,より一般的に捉えて理解することが目標である.特に,極限空間に次元を持った特異点集合が現れるような Riemann 多様体の崩壊に対して,固有形式のノルムの集中現象を調べることが最大の問題となる. 具体的な研究対象とするのは,多様体の手術(球面改変)から得られる崩壊の場合である.なぜなら,今まで研究してきた連結和の場合は 0 次元手術であるので,それを高次元化した場合の研究を行うことは極めて自然な一般化だからである. しかし,一度に全ての次元の手術に対してその固有値と固有形式の極限を調べるのは,大変複雑で相当な困難が予想される.従って,まず多様体のトポロジーが絡む重要な現象である「小さい固有値」の存在条件を調べることを目標とする. このとき,新たに特異点のトポロジーと解析の知識が必要となるので,関連図書を購入して知識を深めたり,専門家のもとへ訪問し様々な知見を得ようと考えてる.また,昨年度に得られた研究成果発表に合わせて,国内外で開かれる研究集会へ参加し,そこで得られる知見を参考にして研究を進める予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の使用金額は,当初本年度行う予定であった学会発表を次年度へ延期することにより生じたものであり,平成25年度請求額の旅費と合わせて使用する予定である.
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