研究課題/領域番号 |
24740040
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
逆井 卓也 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (60451902)
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キーワード | 位相幾何学 / グラフホモロジー / モジュライ空間 / ホモロジー同境 / 写像類群 |
研究概要 |
Kontsevich のグラフホモロジーの理論において重要な役割を果たす自由リー代数のシンプレクティック微分リー代数のホモロジーについて,森田茂之氏,鈴木正明氏との共同研究の中で,昨年度に行ったオイラー数の計算を継続し,ウェイト 20 の部分の計算を進めた.この計算は,未だ多くが明らかになっていない自由群の外部自己同型群の非自明な有理ホモロジー類の存在の証明と直接的に関連しており,本研究を支える重要な柱となっている.具体的な手法はこれまでと同様にシンプレクティック群の表現論と計算機を用いてチェイン複体の構造を調べるというものだが,計算量が膨大となるため東京工業大学の大型計算機を一部利用して計算を行った.必要な計算は3月末の時点でほぼ終了しており,次年度の早いうちに最終的な結果が得られると思われる.理論的部分については,森田茂之氏によって定義されたシンプレクティック不変部分に対する内積を用いて,自由リー代数のシンプレクティック微分リー代数のシンプレクティック不変部分の構造を調べた.とくに次数 6 部分について具体的な座標を構成し,曲面の写像類群の Johnson 準同型の像や Enomoto-Satoh 障害の情報を含む,精密な構造を明らかにすることができた.これらの結果は高次の場合にも適用可能なものである. また,自由結合代数のシンプレクティック微分リー代数のホモロジーについて,前年度に実験的に得られていた穴あきリーマン面のモジュライ空間の同変オイラー数に関するテータの精査を行って,その漸近挙動についての予想を定式化し, 部分的な解決を得ることができた. 以上の研究に加え,阿原一志氏と共著で,曲面の写像類群の入門的内容をまとめた図書を出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自由リー代数のシンプレクティック微分リー代数の構造については,シンプレクティック不変部分の内積を用いるという新しい研究手法ができ,当初の予定であった次数7,8部分の解明とは独立に研究が進んだ.自由結合代数の場合については,同変オイラー数の漸近挙動に関する予想が明解な形で定式化できたため,証明に大きく近づいたと思われる.一方で,日程の調整が上手くいかず,Massuyeau 氏との議論のためのストラスブール大学滞在ができなくなってしまい,曲面のホモロジー同境群に関する研究については,当初の想定に比べ若干の遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
自由リー代数のシンプレクティック微分リー代数の構造については,内積を用いた構造解明を続けることに加え,本研究の中心テーマである,1次ホモロジー群の解明と2次ホモロジー類の構成について集中的に取り組む.自由結合代数の場合については,オイラー数の漸近挙動について今年度に定式化した予想の証明を行う.曲面のホモロジー同境群については,Massuyeau 氏との議論の場を設け,彼と共同で開発した「無限小トレース準同型写像」の精密化について研究を進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に使用を予定していたスーパーコンピュータが支出なしに利用できたことや,ストラスブール大学(フランス)滞在について先方との調整が上手くいかず,次年度に行うことになったため,使用額が予定よりも少なくなった. ストラスブール大学滞在に加え,オーフス大学(デンマーク)の訪問などを予定しており,外国出張旅費として研究費の多くを利用する予定である.これに加え,研究発表や資料収集のための国内出張旅費や専門書の購入もまた主な使途となる.
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