研究課題/領域番号 |
24740042
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高津 飛鳥 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 助教 (90623554)
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キーワード | 最適輸送理論 / 情報幾何 / 測度の集中現象 / 等周不等式 |
研究概要 |
昨年度に引き続き、測度距離空間を主対象として研究を行った。ここで測度距離空間とは、完備可分距離空間とその上のボレル(確率)測度がなす3つ組のことである。今年度も測度距離空間上の幾何解析を主に情報幾何と最適輸送理論を用いて行った。情報幾何とは確率測度族上の計量と接続の幾何である。その中でも特に、ガウス分布やボルツマンエントロピーなどの概念を統計力学の観点から一般化するφ-情報幾何を用いた。そして最適輸送理論とは`物質をある場所から他の場所へ最小費用で運ぶ’理論である。この理論から導かれる(二次の)ワッサースタイン幾何と呼ばれる確率測度空間上の距離の幾何学を用いる。この二つの確率測度空間上の幾何、情報幾何とワッサースタイン幾何、は相異なる。本研究ではこの二つの幾何を同時に扱いそしてガウス型ではない測度距離空間の幾何解析を行ってきた。 今年度は輸送不等式と呼ばれるワッサースタイン幾何と情報幾何を距離の幾何と捉え比較する不等式から、幾何学の基本量である`距離’と`体積’を比べる不等式である測度の集中不等式を導くことができた。しかし本質的な問題であるその逆の主張、すなわち集中不等式から輸送不等式を導くことはできなかった。 また他にもインフォーマルセミナーや議論を行い、結果を得る段階には至っていないが様々な研究の芽を見つけることができた。今年度はこれといった結果を得ることができなかったが、その分沢山の研究のアイデアを得ることができた。そこで来年度は今年度見出した研究の芽を育み、そして結果の実を収穫したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
【研究実績の概要】でも述べたように、輸送不等式から測度の集中不等式を求めることはできた。手法として既知であるガウス型の評価を得るために必要となる指数関数や対数関数の性質が、φ-指数関数やφ-対数関数も同様に持っていることを示し、そしてガウス型の議論を未知であるφ-ガウス型の場合に拡張した。 しかしその逆である集中不等式から輸送不等式を導くことはできなかった。原因は、指数関数とφ-指数関数の振舞いが当初に見込んでいたよりも大きく違っていたことにある。その結果、ガウス型の結果をφ-ガウス型に翻訳しようとすると、ガウス型の証明において現れる指数関数をφ-指数関数に置き換えて議論を展開することができず、そのためφ-ガウス型に議論を拡張することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの達成度】で述べたように、指数関数とφ-指数関数の振舞いの違いが本質的であるため、当初計画していた既知のガウス型議論を拡張することで未知のφ-ガウス型の結果を求めることは難しいように思える。その一方で、近年、非ガウス型の理論も当初に考えていた以外の手法が提唱され始めている。 そこで今後の方針として、非ガウス型に対する最新の結果を考慮し、そして当初に計画していた方向性とは異なった方向性で研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画していた海外の研究集会の長期参加を他の研究集会の中期参加に変えたため、次年度使用額が生じた。 今後の研究を進めるためには、非ガウス型の最新の理論を取り入れる必要がある。そこで研究集会に参加し、最新の結果に触れそして参加者と議論を重ねることで理解を深める。
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