今年度は共同研究によりスティーフェル多様体に関してと、ウィーナー空間上のガウス測度族に関する新しい結果が得られ、近々発表予定である。
スティーフェル多様体とはN次元ユークリッド空間の中の正規直交n-標構を元とする多様体である。スティーフェル多様体をNn次元のユークリッド空間の部分集合と見なし、スティーフェル多様体上の一様確率測度-ハール測度-とガウス測度を比較する。Nを無限大に発散させたとき、ハール測度とガウス測度の距離は弱収束と整合性があるプロホロフ距離に関しては漸近的に零にならないが、弱収束よりも弱い位相を導くある距離に関しては漸近的に零になることを示した。ここでこの距離は測度距離空間-完備可分距離空間とその上のボレル確率測度の組-がなす空間上の距離で、ピラミッドという測度距離空間の収束を論じる際に有益な概念を用いて定義される。例えばk次元ガウス空間-k次元ユークリッド空間とその上のガウス測度の組-はkに関するある種の単調増大性があるため無限次元ガウス空間に収束するように思える。しかし無限次元ユークリッド空間は非可分なので、k次元ガウス空間は測度距離空間の意味では収束しない。しかしピラミッドを用いればその収束が描写できる。
抽象ウィーナー空間とはカメロン・マルチン空間と呼ばれる可分ヒルベルト空間およびその上の標準ガウス測度に当たるウィーナー測度、そしてウィーナー測度の台となる可分バナッハ空間がなす三組である。この空間上でウィーナー測度に同値なガウス測度がなす集合は無限次元ヒルベルト多様体となり、さらに情報幾何を用いることでその上の非正曲率リーマン計量-フィッシャー計量-が構築出来る。我々はこの多様体上に最適輸送理論から定まる距離関数-ワッサースタイン距離-と整合性があるリーマン計量を構成した。さらにフィッシャー計量と異なること、および違いが何に基づくのかを明らかにした。
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