最終年度に行った研究は二つである.一つはRicci曲率が下に有界なKahler多様体の極限空間の研究についてである.特にFano多様体のときにその重み付きラプラシアンのスペクトラムの連続性を示し,Bochner型の不等式を極限空間でえることができた.その系として,正則ベクトル場の極限がまた極限空間上で正則ベクトル場を与えることが示せ,それを用いて,正則ベクトル場のなす線形空間の次元の上界を,次元,Ricci曲率の下からの評価,体積の下からの評価,直径の上からの評価,Ricci potentialの下からの評価だけで与えた.またそれらを用いて,二木不変量のGH収束での振舞いや,Kahler-Ricci solitonとの関係も明らかにし,論文arXiv150903862に二木昭人氏,斎藤俊輔氏と共著でまとめ,雑誌に投稿した.また,Ricci曲率が上下から有界な状況でHodge Laplacianのスペクトル収束について研究を行った.答えは1形式ならスペクトル収束は正しく,2形式以上では一般にはそれは期待できないというものとなった.ところが接続Laplacianについては全てのk形式に対してスペクトル収束がなりたつことを証明した.また,そのような極限空間で曲率テンソルを定義した.それは通常の方法では定義できないことがわかっていることには注意しておきたい.それを使って,Ricciテンソル,スカラー曲率を定義しその性質を調べることで10年ほど前にLottが提出した問題に肯定的な解決を与えた.以上をまとめた論文をarXiv:151005349として発表し,雑誌に投稿した.
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