研究課題/領域番号 |
24740051
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆夫 東京理科大学, 理学部, 講師 (70533256)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自由群の自己同型群 / IA自己同型群 / Johnson準同型 / 曲面の写像類群 |
研究概要 |
本年度は主に,自由群のSL(2,C)表現に関するFricke指標全体の成す環に自由群の自己同型群が自然に作用することに注目し,自由群の自己同型群の作用で不変なイデアルの冪たちの成す降下フィルトレイションを考察した.このフィルトレイションのk次の冪零商へ自明に作用するような自由群の自己同型たちは,自由群の自己同型群の正規部分群を成す.次数kが自然数を動くとき,これらの正規部分群たちは,自由群の自己同型群に一つの降下フィルトレイションを定める.このフィルトレイションがAndreadakis-Johnsonフィルトレイションからどの程度ずれているのかを考察した.幸い,東京農工大の畠中英里氏に専門的知識の提供や助言を頂き,一定の結果を得ることができた.特に,このフィルトレイションの次数kの部分群は,Andreadakis-Johnsonフィルトレイションの次数2kの部分群を含んでいることがわかり,次数1部分に関しては,IA自己同型群の交換子群と自由群の内部自己同型群の積として表されることが分かった.現在は,高次の部分群についてより詳細な情報が得られないか種々の計算を実行中である. これまでに,Andreadakis-Johnson フィルトレイションそのものに関する研究は多々あったが,全く別種の観点から定義されるようなフィルトレイションと相互関連性に関する研究は殆どなされておらず,Andreadakis-Johnson フィルトレイションの普遍的な特性をより明確にする意味においてもこのような研究は意義があるものと考えている. 一方,Andreadakis-Johnson フィルトレイションとIA自己同型群の降中心列との関連性については,現在多くの計算を実行しているものの全容の解明には到っておらず,今後も粘り強く継続していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SL(2,C)のFricke指標を用いた研究により,自由群の自己同型群のAndreadakis-Johnsonフィルトレイションの性質を新しい観点から捉えることができた.新しく導入したフィルトレイションの,特に高次の部分群たちがAndreadakis-Johnsonフィルトレイションのそれらとどの程度ずれているかという新しい問題も考えられ,今後の研究に繋げることができた. また,Andreadakis-Johnson フィルトレイションとIA自己同型群の降中心列とのずれについては,当初は問題の複雑さも不明瞭であったが,自由群のIA自己同型群の交換子たちの計算を進めるにつれ,難解な個所が明確になりつつある.特に,IA自己同型群のある部分群に制限すればAndreadakis予想が肯定的に解決されることが予想され,目下,研究を進めているところである.今後は得られた結果を下に,IA自己同型群全体へ理論を拡張できるかどうかといった研究に集中することができ,中長期的な観点に立てば,これまでの研究は概ね順調に進行していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
まず,自由群のSL(2,C)Fricke指標を用いて定義される,自由群の自己同型群の新しいフィルトレイションに関連する研究を進める.特に,SL(2,C)Fricke指標に限らず,自由群の自己同型群が作用するような環とその非自明なイデアルがあれば同様の手法で,自由群の自己同型群に降下フィルトレイションを定義することができる.特に,線型表現の階数を上げたり,traceによる指標函数以外の共役不変な函数たちを利用することで得られるフィルトレイションとAndreadakis-Johnson フィルトレイションがどのような位置関係にあるのかが大変興味深く,この方面の研究を進める.一般に,これらの問題は手を動かして計算をしながら進められる研究でもあるので,比較的に取りつきやすいものであると考えている. 一方,Andreadakis-Johnson フィルトレイションとIA自己同型群の降中心列とのずれに関する研究については,現在進行中の計算を積極的にかつ優先的に進める.これは,大雑把に言えば,IA自己同型群の降中心列の各次数商において生成元の数をどの程度減らせるかということを具体的かつ膨大な計算により確かめるというものである.IA自己同型群そのものに対しては複雑すぎて手に負えないが,ある部分群に制限すると,そのJohnson像の階数に一致するまで生成元を減らせるのではないかと予想され,この場合にAndreadakis予想が肯定的に解決される見通しである.それらの結果をもとにIA自己同型群の場合も考察を進めたい. 今年度は主に,以上の2点に焦点を絞って力を注いでいきたいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,自由群の自己同型群の研究に関する資料収集,及びこれまでに得られた研究成果を発表するために,国内,及び海外の学会や研究集会に参加する予定であり,そのための出張旅費が必要である. また,専門家から,当該研究を遂行する上で必要な専門的知識を提供して頂く際の旅費及び謝金が必要になる可能性があり,相当額の予算を計上しておきたいと考えている. さらには,研究の過程で適宜必要となる数学の専門書(洋書,和書を含む.)を購入するための費用も必要である.
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