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2012 年度 実施状況報告書

生物の振動収縮に基づく分散情報処理機構の研究

研究課題

研究課題/領域番号 24740066
研究種目

若手研究(B)

研究機関広島大学

研究代表者

伊藤 賢太郎  広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20528351)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワード数理モデル / 振動子系 / 真正粘菌 / パターン形成
研究概要

脳をもたないような原始的な生物がどのように外界からの情報を処理し適切な行動をとるのかを明らかにするために,「数理モデルを作成しその振る舞いを理解する」という構成論的なアプローチによりその機構を明らかにすることが本研究の目的である.
真正粘菌変形体におけるアクチンミオシンの振動収縮は,粘菌の厚みの変化,原形質流動を生み出しており,いわば粘菌の多様な振る舞いの原動力ともいうべきものである.私はストレスに対する応答も含めたアクチンミオシンの振る舞いを現象論的な数理モデルとして記述し,そのアクチンミオシンを含めた粘菌の数理モデルを構築した.これにより,粘菌と同様な振動パターンを示し,なおかつその多様な振動パターン間の遷移を起こすカオス的な解を持つことを確認した.また,振動パターン間の遷移がどのような順番で起こるのかにも注目し,それらを解析した.また,この現象が理想化された系特有の現象ではなく,ロバストな現象であることを確認するため内部流体に圧縮性を持たせた別の系についても,同様に振動パターンの遷移が起こることを確認した.これらの結果については,すでに複数の学会で発表を行っており,もっとも単純化された数理モデルについては現在論文を執筆中である.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

粘菌の運動の根幹にあたる振動収縮の数理モデルを構築し,単純な系においては粘菌の振動パターン間の遷移現象をこの数理モデルにより再現できることを確認した.これは,いわば振動収縮の数理モデルのテストを兼ねた研究であったのだが,パターン間の遷移という中程度の時間スケールの現象までを再現できたことは,大きな進展であるといえる.これにより,より大きなスケールの系で今回開発した振動収縮のモデルを用いた場合に良い結果が得られるものと期待している.
当初の予定では,様々なパラメータの値における系の振る舞いを数値計算に調べ,それらの結果を通して,パターン間の遷移現象を生み出すメカニズムを探っていく予定だったのだが,早い段階で筋道立てた説明が可能になったので,初年度は振動パターン間の遷移の解析をより詳細に詰め,規模の大きい数値計算は次年度に持ち越すこととなった.また,この研究とおして振動パターン間の遷移を定量的に議論するための指標の開発についても進展があったので,今後の研究で活用していきたい.

今後の研究の推進方策

最も大事な部分である「振動収縮の数理モデル」を作ることができたので,今後はより大きなスケールの系,つまりより要素数の多い系について本モデルがどれだけ実際の粘菌の実験結果を再現できるか調べていきたい.具体的には,振動収縮に駆動されるネットワーク内の原形質流動と,その原形質の流量に応じた管の成長まで織り込んだモデルを作成し,その振る舞いを調べていきたい.また,数理モデルの振る舞いが実際の実験に似ている,似ていないを議論するための指標を作成していき,数値計算結果と実際の実験データを解析して得られた指標の比較を行っていきたい.
実際の生物実験の研究者や制御理論の専門家等とも積極に議論を行い,情報集中を行うと同時に本研究から得られた知見を広めていくつもりである.また,これは意外な収穫であるのだが,今回構築した数理モデルは,従来の結合振動子と呼ばれるリミットサイクル振動子の結合系とは異なるクラスの問題であることが明らかになった.これにより,力学系の研究としても興味深い知見が得られるのではないかと期待している.

次年度の研究費の使用計画

初年度に比べて,より多くの数値計算を行う必要があるため,高性能な計算機を購入する.当初,この計算機は初年度に購入する予定だったのだが,研究の進捗状況から初年度に高性能の計算機はそれほど必要はなく,それよりも購入を一年遅らせることにより安価で高性能な計算機を購入できるということを総合的に鑑み,次年度に購入することを決定した.また,様々な研究分野の人々に本研究を紹介し,積極的に情報交換を行っていくために年数回の出張費を計上する.

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] A Fluid-Filled Soft Robot That Exhibits Spontaneous Switching Among Versatile Spatiotemporal Oscillatory Patterns Inspired by the True Slime Mold2013

    • 著者名/発表者名
      Takuya Umedachi, Ryo Idei, Kentaro Ito, Akio Ishiguro
    • 雑誌名

      Artificial Life

      巻: 19 ページ: 67-78

    • DOI

      10.1162/ARTL_a_00081

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Adaptive Path-Finding and Transport Network Formation by the Amoeba-Like Organism Physarum2013

    • 著者名/発表者名
      Itsuki Kunita, Kazunori Yoshihara, Atsushi Tero, Kentaro Ito, Chiu Fan Lee, Mark D. Fricker, Toshiyuki Nakagaki
    • 雑誌名

      Proceeding in information and Communications Technology

      巻: 6 ページ: 14-29

    • DOI

      10.1007/978-4-431-54394-7_2

    • 査読あり
  • [学会発表] 真正粘菌に着想を得た流体質量保存結合振動子系における自発的パターン間遷移の解析2013

    • 著者名/発表者名
      伊藤賢太郎,出井遼,梅舘拓也,石黒章夫
    • 学会等名
      第25回自律分散システムシンポジウム
    • 発表場所
      東北大学
    • 年月日
      20130125-20130126
  • [学会発表] 振動子に駆動されるシリンダー結合系に現れるパターン遷移2012

    • 著者名/発表者名
      伊藤賢太郎,出井遼,梅舘拓也,石黒章夫
    • 学会等名
      日本物理学会秋季大会
    • 発表場所
      横浜国立大学
    • 年月日
      20120918-20120922
  • [学会発表] 粘菌の振動パターン間遷移を説明するためのシリンダー結合モデル2012

    • 著者名/発表者名
      伊藤賢太郎,出井遼,梅舘拓也,石黒章夫
    • 学会等名
      第22回日本数理生物学会年会
    • 発表場所
      岡山大学
    • 年月日
      20120910-20120912
  • [学会発表] 内部流体を介して相互作用するモジュール結合系における自発的振動パターン間遷移2012

    • 著者名/発表者名
      伊藤賢太郎,出井遼,梅舘拓也,石黒章夫
    • 学会等名
      広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 第4回公開シンポジウム
    • 発表場所
      広島大学
    • 年月日
      20120906-20120907
  • [学会発表] Coupled oscillatory cylinder model for Physarum oscillation2012

    • 著者名/発表者名
      Kentaro Ito
    • 学会等名
      Two-day workshop on Ethology and Rheology of Physarum and Its Related Topics, Hakodate
    • 発表場所
      Hakodate City Central Library
    • 年月日
      20120702-20120703

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公開日: 2014-07-24  

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