ポテンシャルをもつ質量優臨界非線形シュレディンガー方程式の小さな定在波解(空間的に局在化された時間周期解)の安定性について調べた。定在波解の安定性はエネルギーが最小の定在波である基底状態解に関してはすでによく知られているが、基底状態解以外の定在波解(励起状態解)に関しては、不安定であると考えられるが数学的な証明が与えられている場合は極めて少ない。研究代表者の前田はCuccagna氏とともにシュレディンガー作用素が複数の固有値を持つ場合にその最小固有値以外から分岐する励起状態解の不安定性を証明することに成功した。通常、定在波解の不安定性はその線形化作用素を解析することによってなされるが、励起状態解の場合、線形化作用素が中立安定であることがあり線形化作用素の解析がただちに不安定性の証明につながるわけではない。そこで前年度までに得られた成果である小さな解の時間大域挙動の分類定理に注目し、励起状態解が軌道安定であるならば漸近安定であることと、エネルギー不安定性と漸近安定性は分散波のエネルギーが常に正であることから両立しないことを示すことによって不安定性の証明を行った。 エネルギー不安定性と漸近安定性が両立しないことは一般の場合でも示すことが可能であり、仮により大きな解に対してもソリトン分解予想のような時間大域挙動の分類を行うことができれば、励起状態解の不安定性もそこから従うことを示すことができる。ソリトン分解予想は非常に難しいと考えられているが、一般の励起状態解の線形化作用素の詳細なスペクトル解析はほとんど不可能に近いと思われるので、前田らの本年度の研究は励起状態解の安定性解析の手法を広く与えるものであると期待される。
|