本年度は,昨年度に引き続き1粒子ハミルトニアンのスペクトルの性質を研究した。特に,無限グラフ上を運動する粒子を考え,グラフの変形とともにスペクトルがどのように変化するかについて考察した。頂点を新たに付加する変形について,以下の結果を得た。 (1) 零固有値が存在するための必要十分条件:有限グラフにおいて知られている零固有値存在のための条件を無限グラフに一般化し,零固有空間の次元を不変にする変形があることがわかった。また,そのような変形で,ウィッテン指数も不変であることを明らかにした。 (2) 周期的な場合のスペクトルギャップが存在するための必要十分条件:スペクトルギャップが存在するための必要十分条件は,(1)で述べた零固有空間の次元を不変にする変形をしたグラフがスペクトルギャップをもつことであることがわかった。 (3) 周期的とは限らない場合のスペクトルギャップが存在するための条件:周期的ではなくても,(1)に述べた変形をしたグラフがスペクトルギャップをもつことが十分条件であることがわかった。 以上述べた結果を応用することにより,さまざまなグラフの零固有空間の次元やウィッテン指数が簡単に計算できるようになった。一般に,周期的でない無限グラフのスペクトルを計算するのは容易ではないが,頂点を付加する変形でスペクトルギャップが出現するかどうかの判定がグラフの構造から容易に判定でできるような例が比較的たくさんあることもわかった。
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