本年度は,昨年度に考察した粘性ハミルトン・ヤコビ方程式に対する臨界性理論の離散版について研究した.具体的には,長時間平均型の評価関数を持つ離散時間のマルコフ決定過程を考え,評価関数の中に組み込まれた実数パラメータを変化させるとき,最適値や最適制御に関してある種の相転移現象が起こることを示した.評価関数が特別な形の場合には,上記の問題は統計物理に由来する離散型homopolymerモデルと一致することに注意する. 本年度の研究成果として以下の結果を得た.まず,最適化問題の最適値が対応する最適性方程式の一般化固有値と一致することを示した.次に,最適性方程式の一般化固有関数を用いて最適化問題の最適フィードバック制御を具体的に構成した.さらに,問題中の実数パラメータにはある臨界値が存在し,その値の前後で最適軌道の長時間挙動(再帰性・過渡性)が変化することを示した.昨年度はこれらの問題に対する連続モデルを考察したが,本年度の研究により離散型モデルについてもある程度一般的な状況下で類似の結果が得られることがわかった.さらに,連続モデルの場合では得られていなかった臨界値に関する評価式を導出することができた. 研究期間全体を通して,粘性ハミルトン・ヤコビ方程式の特異摂動問題およびそれに関連する漸近問題についての基礎的な成果を得ることができた.これらの研究成果を足がかりとして,非局所型方程式への拡張やランダム環境中の最適制御の研究に発展していくものと期待される.
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