コンパクトケーラー多様体上の曲線流を記述するある空間1次元4階非線形分散型偏微分方程式の初期値問題の解法を考察した。特に多様体が実2次元球面である場合、この偏微分方程式はある種の1次元古典スピン系の連続体近似モデルや3次元非圧縮性非粘性流体内の渦糸曲線の(接ベクトルの)モデル方程式として知られている。 今年度は主に閉曲線流の場合、すなわち未知関数の空間変数の定義域が1次元平坦トーラスである場合の初期値問題の解の存在について考察を進めた。この設定下では空間変数に関する2階までの可微分性の損失が標準的なエネルギー法による解法の障害になる。一方で、トーラスのコンパクト性により実数直線上の4階分散型偏微分方程式の解に対する局所平滑化効果は期待できないため、解の存在を示すためには偏微分方程式系としての良い構造を捕まえて可微分性の損失を解消する必要があった。前年度末の研究で像空間の多様体が定曲率コンパクトリーマン面であるときに滑らかな時間局所解が存在することがわかったが、それを保証する偏微分方程式の構造を十分に説明できなかったので引き続き考察を進めた。その結果、偏微分方程式の構造と多様体の幾何学的構造との関係がより明確になり証明の見通しも大幅に良くなった。これらの成果を日本流体力学会の年会、日本数学会の秋季総合分科会や九州での研究集会で口頭発表した。一方で、解の一意性の証明については、解が多様体値であることから生じる問題点の克服を試みたが、まだうまくいっていない。
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