研究課題/領域番号 |
24740096
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
上原 崇人 新潟大学, 自然科学系, 助教 (40613261)
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キーワード | 複素曲面 / 自己同型写像 / 力学系 / エントロピー |
研究概要 |
本研究の研究対象は,コンパクト複素曲面もしくは射影代数曲面上の双正則自己同型および双有理自己同型写像である.本年度扱った研究対象は,尖点反標準曲線を許容する有理曲面上で正の位相的エントロピーをもつ双正則自己同型写像である.当該曲面上の自己同型写像は尖点反標準曲線を保つため,写像に対してディターミナントが定義される.このディターミナントが実数の場合には,係数が実数体上で与えられるため,写像を実力学系とみなすことができる.本年度は写像を実力学系とみなした場合と複素力学系とみなした場合での位相的エントロピーの関係を研究した. 具体的な研究成果として,写像を許容する空間に結節ルートが有限個しかない仮定のもとで,実力学系と複素力学系の位相的エントロピーが一致することを示した.結節ルートが有限個しかない空間は,例えばマクマレンにより構成された空間等いくつかの具体例が存在するが,これらの例に対しては実力学系に対するエントロピーを具体的に決定されたことになる.一般に,実力学系のエントロピーを計算することは容易ではないが,実力学系と複素力学系の関係を用いて,実力学系のエントロピーが決定されたことは興味ある結果であると考えている. 今回の結果は,結節ルートが有限個しかないという仮定のもとで示されたものであるが,この仮定は必要ないと考えている.今後は,より一般の力学系に対して,実力学系と複素力学系でのエントロピーの関係を示していきたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は複素曲面上の双正則自己同型写像の解析であるが,そのモチベーションの一つは,直接解析することの困難な実力学系に対して,力学系を複素力学系とみなして,複素解析や複素幾何学,複素ポテンシャル論の手法を用いて解析したのち,実力学系に関する結果に還元することであった.一般に,力学系の中でも重要な指標である位相的エントロピーを実力学系に対して計算することは容易ではないが,複素力学系とみなした場合,エントロピーはコホモロジー群のスペクトル半径を用いて計算される.そこで,複素力学系と実力学系のエントロピーの関係を解明して実力学系のエントロピーを具体的に計算できたことは興味ある結果であると考えている.よって,今年度の研究の達成度は,おおむね順調に進展していると結論づける.
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今後の研究の推進方策 |
今後も主に複素曲面上の写像による力学系の研究を行う.特に次年度は,今年度得られた結果を一般化する.つまり,今年度は空間に結節ルートが有限個しか存在しないという条件下で,実力学系と複素力学系の位相的エントロピーが一致することを示したが,この条件を外した場合でのエントロピー間の関係を示す.当該結論を示すためには,モンシェによる結果が有用であると考えている.彼の結果によれば,ネフ錘がある条件をみたす有限個の有効因子で生成されていれば,実力学系と複素力学系の位相的エントロピーが一致することを示している.そこで,本研究で考察されている力学系について具体的に条件をみたすか否かを調べることで,エントロピー間の関係が明らかになると考えている. また,写像の不動点および周期点まわりでの挙動について調べる.一般にエントロピー正の自己同型写像に対して,ほとんどすべての周期点は双曲型であることが知られている.しかし,双曲型以外の周期点の存在を調べることも興味のある問題である.例えば,K3曲面上の双正則写像の場合には,不動点まわりでジーゲル円板とよばれる領域が存在することをマクマレンは示している.写像のジーゲル円板とは,不動点のまわりで写像が無理数回転として作用する領域のことで,エルゴード性や稠密な軌道の存在に対する障害となるものである.今後は,これまでの研究で得られた双正則写像の中から,無限個数のジーゲル円板をもつ例を探す.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究においては,一般的な理論を展開するための前段階として必要な数値実験が必要でなくなったことに伴い,ノートパソコンや計算ソフトを購入せずに研究成果をあげることができた.さらに知識習得のために必要となる書物も多く購入することなく研究できた.そのため,研究費の支出額を抑えることに成功した. しかし,次年度の研究においては多くの研究費が必要になる.まず,上記で述べたような一般的な理論構築を行うためには,前段階として具体的なモデルに対する数値実験は不可欠である.そのため,本研究において必要となる優れた計算ソフトを購入する.また,知識習得のため,代数・幾何や力学系に関する書物や,関連する研究結果のまとまった専門書も購入する.さらに専門的な知識を習得するため,また研究者との意見交換を行うため,出張を行い研究集会に参加する.
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