研究課題/領域番号 |
24740097
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡部 真也 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70435973)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 偏微分方程式論 / 変分法 |
研究概要 |
本年度は, 平面開曲線に対して定義される幾何学的発展方程式について研究を行った. これは M. Novaga 氏( Pisa 大)との共同研究に基づくものである. 以下, 研究の概要と得られた成果を述べる. Modified total squared curvature とよばれる, 曲率の二乗積分に曲線の長さを加えた汎函数に対する勾配流方程式について考察した. 既存の研究においては対象とする曲線は有限の長さをもつ閉曲線であったが, 我々は無限の長さをもつ平面開曲線を対象として扱った. 勾配流方程式について解析を行う場合にはその時間大域的可解性を得るべく,初期状態における汎函数の有界性を課すことが一般的な手法である. 我々の問題では無限の長さをもつ曲線を扱うため, 汎函数が非有界となり既存の枠組みを適用することが困難となる. 昨年度までの研究により, 我々は勾配流方程式が時間大域的に滑らかな解をもち, その解がある平衡状態へと部分収束することを示していた. 本年度に得られた成果は以下である: 定理. 初期曲線の回転数が 0 でないならば, 無限大へと発散する時間列が少なくとも一つ存在し, 解はその列に沿って borderline elastica へと滑らかに収束する. ここで, 回転数とは曲率を曲線に沿って線積分した値を意味する. また, borderline elastica はただ一つのループ部分を有する弾性曲線として知られるものである. この結果と昨年度までに得られていた成果を論文としてまとめ, 現在投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度を終えた現在の達成度としてはおおむね順調に進展していると言える. 実際, 研究題目の一つであった「Modified total squared curvature の勾配流方程式に支配される無限の長さをもつ平面開曲線のダイナミクス」について, 研究実績の概要で述べたように一定の成果を得た. 研究開始当初は曲線がある平衡状態にある時間列に沿って滑らかに収束することしか示すことができないのではないかと予想されていた. しかし, 得られた結果は「初期曲線に仮定をおけばある時間列が少なくとも一つ存在し, その時間列に沿って曲線が borderline elastica に収束する」というものであり, より具体的な曲線のダイナミクスを示すことに成功した. いい意味で予想を裏切る結果が得られたことから, 現段階での達成度は区分のようであると判断した. また, 本課題について研究を行う中で, 曲線が時間列に沿って収束する, 所謂「部分収束する」という結果を「時間を無限大とするとき収束する」と改良できないか, という方向へ研究が発展した. 結果, 曲線の長さを有限とする必要はあるが, 曲線が部分収束する場合に実際に曲線が収束することを示すための一般論を構築するに至った. この結果を適用することにより本課題で扱っていた幾何学的発展方程式に幾つかの典型的な境界条件を課した問題すべてについて曲線の収束を示すことに成功した. この結果は現在更なる応用を検討しつつ論文としてまとめている段階である. 当初予定していた課題について予想よりもよい結果を得たのみならず, そこから派生した課題についても一定の成果を得ることができた. 従って, 現段階の達成度としておおむね順調であると結論してよいものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の課題を継続することとあわせて今後は以下のように研究を進めることを計画している: 【1】自己交差を抑制する幾何学的発展方程式の構成について 本課題については二通りのアプローチから解析を行う予定である. ひとつは結び目に関するエネルギー汎函数として知られるメビウス汎函数を我々が扱う汎函数に付け加え, その新たな汎函数に対する勾配流方程式を解析する, というものである. メビウス汎函数の性質から, その勾配流は自己交差を抑制する効果が十分に期待できると考える. もう一つのアプローチは minimizing movment と呼ばれる変分法を用いた近似スキームを用いる方法を検討している. この手法により, 障害物がある場合の平均曲率流の挙動に関する先行研究が近年なされていることから, 我々の問題への応用も十分に期待できると考えている. 【2】平面閉曲線において定義されるある Action 汎函数に対する変分問題 この問題に関しては非動径対称な臨界点の存在について既に結果を得ていた(13. 研究成果の雑誌論文欄に記載). しかし, この結果以降, この課題に関する進展は得られていない. そこで, 近年, より弱い枠組みで本課題の高次元版にあたる問題を解析している A. Magni氏(Freiburg大)と共同研究を行う予定である. まず取り組むべき課題としては, 構成した非動径対称な臨界点が少なくとも局所的に最小解であるのか否かを明らかにすることであると考える.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は, 今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり, 平成25年度請求額とあわせて平成25年度の研究遂行に使用する予定である. 研究を効率的に推進したことにより研究費の使用予定に変更は生じたものの, 研究の進捗状況は上記したようにおおむね順調であることから, 次年度使用額と平成25年度請求額をあわせた研究費を適正かつ適切に使用できるものと考える.
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