研究課題/領域番号 |
24740099
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
白川 健 千葉大学, 教育学部, 准教授 (50349809)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 薄膜磁性体 / 結晶粒界現象 / 自由境界 / 幾何学的構造 / 安定性 / 変分不等式 / 劣微分作用素方程式 / 時間離散化法 |
研究概要 |
本研究では、最先端科学に現れる自由境界の安定性を「力学系」と「近似」の両側面から考察することで、自由境界の安定構造を多角的な観点から追及することを目的としている。平成24年度では「薄膜磁性体」と「結晶粒界現象」に現れる自由境界問題を研究課題として設定し、これらに対する数学理論を用いた解析に取り組んだ。 薄膜磁性体に関しては、研究協力者であるハディジ氏 (パリ東大学) と連携を取りながら課題を遂行した。昨年度までのハディジとの研究交流を通し、薄膜磁性体の数学モデルが再現する自由境界と材料係数の零点集合の幾何学的構造との間に密接な関連があることを、「ガンマ収束」の一般論を用いて解明してある。本年度ではこのガンマ収束の理論が適用できないケースに挑戦した結果、材料係数に制約条件を必要とするものの、こうした一部の自由境界の安定構造に対してガンマ収束に頼らない解析法を新たに構築することに成功した。 結晶粒界現象に関しては扱う変分不等式の解の存在が未保証であったため、本年度では最も簡単な空間1次元のケースに的を絞り、1次元数学モデルの可解性と時間無限大での解挙動について、研究協力者の渡邉氏 (サレジオ高専) と共同で取り組んだ。その結果、空間1次元特有の埋蔵定理を活用すれば、数学モデルを時間依存型劣微分作用素方程式論の枠組みで扱い可能となることを明らかにし、得られた一連の成果を国内外の研究集会で報告した。他方で海外の協力者である J. M. マッソン氏 (バレンシア大学) とも研究討論を実施したところ、1次元モデルに対する時間離散化法を用いた別解法を見つけることが出来た。この別解法では空間1次元の埋蔵定理は本質的でないため、この手法を足掛かりすれば将来的な課題である一般多次元のケースへ挑戦する道が切り開けるものと、今後の展開に大きな期待を寄せている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究課題は「薄膜磁性体」と「結晶粒界現象」に現れる自由境界問題に対する数学理論を用いた考察であったが、それぞれの課題の達成度に関しては以下のように自己評価している。 薄膜磁性体の研究課題に関しては、当初の計画通りに平成24年度の早い段階で研究成果のめどを立てることが出来た。またこの研究課題で扱う数学モデルは「膜幅ゼロの極限」「近似エネルギーの特異極限」「時間発展モデルの漸近挙動」という3種類の観点からの極限のアプローチが考えられる。言い換えれば、この課題では少なくとも3つの観点から自由境界の安定性解析が可能であるため、数値実験による再検証を加えることで今後も多くの興味深い研究成果が得られることが期待出来る。 結晶粒界現象の研究課題に関しては、申請段階から今年度では空間1次元のケースを扱うことになっていたので、1次元モデルに対する数学理論による解析法が構築できた時点で十分に目標は達成できている。特に時間無限大での解挙動に関する研究成果は力学系の安定性と深く関係するため、本研究の中心である「安定性」というキーワードと照らし合わせても計画は順調に進展していると言ってよい。更に、海外の研究協力者と共同で発見した時間離散化法による別解法は、結晶粒界の数学モデルに対して空間次元に依存しない統一的な解法が見つかる可能性を示唆している。このことから、このアプローチに沿って研究を進めることで、次年度以降には結晶粒界モデルの数理解析において大きな進展があるものと、現段階から確信に近い形で手ごたえを感じている。
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今後の研究の推進方策 |
はじめに、平成25年度における研究の推進方策について述べる。申請段階では年度前半に海外の研究協力者であるマッソン氏を招聘することを計画していたが、この期間中にマッソン氏を中心とする大規模な研究集会があることから実現が難しくなったため、こちら側が研究集会に参加して現地で研究討論を行うよう計画を変更する。これに対して研究面では、前年度において順調に計画が進展していることから、計画の修正はほとんど必要ないとみている。したがって当初計画通り、平成25年度では結晶粒界の数学モデルに的を絞った上で、一般多次元のケースをも扱い可能な数学理論の構築を達成目標の主軸として設定する。また平成25年度では数値計算の専用機を導入し、これを活用することで薄膜磁性体に関する課題の再現実験を行う。薄膜磁性体に関しては、今後の進展に関する大まかな方策は出してあるが、活動を本格化する前にこうした見通しの妥当性を数値データを交えて検討しておきたいと考えている。それ以外でも推進方策を見直す際には数値実験による状況の可視化が必要となることが予想されるため、導入予定の専用機については要求されたタスクにいつでも応えられるような計算環境を、当該年度中に整備する。 次に平成26年度以降の研究の推進方策について述べる。現時点では、結晶粒界現象の解析法の構築に関しては平成25年度で課題遂行のめどを立てる見通しであるが、これが計画通りに進まない場合は、平成26年度の前半期まで課題の遂行期間を延長する。またこれとは別に、数値計算活動に関しては研究協力者と分担することで、あくまで数学理論を中心とした研究活動が実施できるような体制を整える。したがって平成26年度以降では、研究協力者である角谷敦氏(広島修道大)と連携するための予算枠の確保も、課題遂行の効率化を図る上で重要となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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