研究課題/領域番号 |
24740101
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
久藤 衡介 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (40386602)
|
キーワード | 非線形解析 / 偏微分方程式 / 現象の数理 / 分岐理論 / 縮約理論 |
研究概要 |
交差拡散項(cross-diffusion)を伴うロトカ・ボルテラ方程式の解析を行った。この方程式は縄張り争いをする2種類の生物種の個体数密度を調べる反応拡散モデルで、重定-川崎-寺本の提唱(1979)以来、国内外で継続的に研究が重ねられているが、とりわけ交差拡散項に対する解析の困難から、解構造は未開のままである。先行研究において、Lou-Ni(1998)は交差拡散を無限大にしたとき、共存定常解は極限系と呼ばれる2つの近似問題の解によって特徴付けられることを示している。1つ目の極限系は競争種の棲み分け現象を特徴付け、2つ目の極限系は交差拡散効果のない種の減衰を特徴付ける。1つ目の極限系については、Lou-Ni-四ツ谷の研究によって詳細な解構造が空間1次元では得られている。しかしながら、連立の楕円型方程式から成る2つ目の極限系に対してはほとんど研究が進んでいない状況であった。 本年度の当該研究においては、2つ目の極限系に対する解析を行い、空間1次元のケースでは係数条件によっては単調増加な解が少なくとも2個存在することを証明した。この極限系に対する従来の研究においては、単調増加な解は係数条件を施しても高々1個しか見つかっていなかったことから、本研究は極限系の定常解が本質的に多重構造を備える点を初めて明らかにしている。さらに、定常解のサイズの先験的な評価や共存解が存在しない係数の領域幅を広げるなどの成果も得られ、これまで成果報告が乏しかった上記の極限系に対する研究の進展に貢献した。 加えて、本年度においては、前年度の当該研究で得られた成果を華東師範大学(中国上海市)、KAIST(韓国大田市)で開催された研究集会ならびに愛媛大学、学習院大学で開催された日本数学会の函数方程式論分科会で口頭発表した。また前年度の研究成果を論文としてまとめ、偏微分方程式の国際的な学術雑誌に投稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の「研究の目的」に記載したように、本研究はロトカ・ボルテラ系に交差拡散項や移流項を付加した際の解構造の変化を捉えることを目的としている。後者の移流項を付加した系については前年度の研究によって、とくに拡散と移流を一定比で無限大にしたときの極限系が導出され、その極限系の解集合が形成する大域分岐構造が空間1次元では得られている。 本年度においては、前者の交差拡散を付けた系に対する研究を中心的に行った。研究実績の概要にも記述したように、ロトカ・ボルテラ競争系において片方の交差拡散項が非常に大きいケースでは、定常解は2つの極限系によって特徴付けられ、その内の片方の極限系に対する研究が停滞していた。本研究においては、この極限系を解析し、係数条件によっては解が本質的に2個存在することを証明した。ただし、この結果は、係数に対する条件をかなり限定しており、定常解の大域的な構造解明に直接結びつくものではない。とはいえ、定常解の多重存在性は研究計画の立案の時点でも予測出来ていなかったことから、大きな進展であったと言える。また、本年度の研究対象とした極限系は、係数がある種の退化条件をみたすと、解の高さがいくらでも大きくなりうる特徴(解の非有界性)があり、この特徴が解析を困難にしてきた。本年度には、係数がこの退化条件をみたさなければ、解の高さが有界にとどまることを証明できた。この成果は上記の極限系に対する解析における1つの障壁を排除したという点で評価出来る進展である。前年度までは、移流項を伴う系を研究が計画より進展している一方、交差拡散を伴う系の研究は計画より遅れ気味であった。本年度はその遅れを取り戻している。 反省点として、本年度までの研究成果の多くが空間1次元に限定されていて、多次元での研究が遅れ気味であることが挙げられる。総合的には、研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度で上述したように、ロトカ・ボルテラ競争モデルで交差拡散を無限大とした極限系に対しては,特別な係数条件で定常解の多重存在性を示した。今後は、断片的に得られたこの多重構造を手掛かりにして、定常解の大域分岐構造の解析にあたる。さらに、Lou-Ni-四ツ谷によって得られているもうひとつの極限系の定常解構造と組み合わせることによって、ロトカ・ボルテラ系で交差拡散が大きい場合の定常解の大域分岐構造を抽出する。とりわけ、棲み分けと沈滞を特徴付ける2つの極限系のそれぞれの解集合が、どういった状況で繋がっているのかを明らかにする。解析にあたっては、本研究課題の予算で購入した計算機を用いた数値シミュレーションを適宜援用する。 また、現在までの達成度の最後に述べたように、本研究課題においては空間多次元での解析が遅れ気味である。今後の研究では、これまで得られた空間1次元の解構造を空間多次元に一般化出来るかどうか吟味する。その際、定常解の連結集合を構成することが懸案となるが、必要に応じて領域を限定するなどして、柔軟な解析を試みる。また、定常解の安定性解析も推進する。 平成26年度は本研究課題の最終年度である。この点に鑑み、研究期間内での成果を論文としてまとめるとともに、国内外の研究集会で口頭発表を行い、本研究課題の意義を広く主張していきたい。また、分野を同じくする国内外の研究者との交流を深め、大局的な視点で非線形拡散系の研究に貢献していきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
購入予定の書籍の出版が延期となったため,当該の次年度使用額が発生した。 購入延期となっていた書籍の購入に充てる。
|