最終年度においては交差拡散項をもつロトカ・ボルテラ系の定常問題の研究に力を注いだ。具体的には、1979年に重定・川崎・寺本によって提唱された2種類の競争種の個体群密度を記述する交差拡散系(SKTモデル)において、片方の種の交差拡散係数を無限大とした際の定常解の漸近挙動を解析した。この漸近挙動は、1999年のLou-Niの研究によって、2種類の極限系によって分類されることが知られている。そのうちのひとつは、競争種の棲み分けを特徴付ける極限系で、Lou-Ni-四ツ谷の研究で解構造が得られている。しかしながら、交差拡散効果の弱い種の減衰を特徴づけるもうひとつの極限系に対してはほとんど研究がされていなかった。 本年度の特筆すべき研究成果は、非線形楕円型方程式に対するノイマン問題で構成される後者の極限系の大域分岐構造を空間1次元で得たことである。具体的には、交差拡散効果が弱い種の増殖率を係数パラメータにとると、ある閾値より係数が大きいと非定数解が存在せず、それより係数が小さいと非定数解が存在することを示した。さらに、非定数解の大域分岐枝は、係数パラメータがマイナス・ラプラシアンの第二固有値に近づくと爆発することを証明した。この結果は、係数パラメータが上記の固有値に等しくなると、2種類の極限系の解集合が(正規化の後に)繋がることを意味している。これまで、2つの極限系は異なる研究グループによって独立に研究されてきて、系同士の関連性が議論されていなかっただけに、今回の結果が2つの極限系の接合点を発見した点で意義深い。なお、この結果は、片方の交差拡散が大きいとき、SKTモデルの定常解集合が固有値付近でサドルノード分岐を起こすことを示唆している。 上記の研究成果は、日本数学会総合分科会(函数方程式論分科会)などの研究集会において口頭発表するとともに、論文としてまとめ国際的な学術雑誌へ投稿中である。
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