Zalcmanの補題は正則関数族が正規族で「ない」ことの必要十分条件を与える命題である.正則力学系のJulia集合(カオス部分)や正則力学系族のパラメーター空間における分岐集合(たとえば,いわゆるMandelbrot集合の境界)は,いずれも正則関数族がその点のすべての近傍で正規族で「ない」ような点の全体として定義されるため,Zalcmanの補題による定式化が可能である.本研究では,これらを統一的な視点から眺めることで,両者の類似性を見いだし,それぞれの理解を深めることを目標とした.具体的には以下の研究をおもに行った. ● Cantor型Julia集合をもつ2次多項式が退化しMisiurewicz型Julia集合とよばれるタイプになるまでの,正則運動としての速度の評価と力学系の変化の記述方法について研究し,その成果を発表した.(Yi-Chiuan Chen氏 との共同研究,論文執筆中) ● Mandelbrot 集合のなかに Cantor型Julia集合がいくらでも等角に近い擬等角写像で埋め込まれていることに関する研究を行い,その成果を発表した.(木坂正史氏との共同研究,論文執筆中) ● Riemann ゼータ関数の零点分布に関するリーマン予想を複素力学系の固定点の「正則指数」とよばれる不変量で翻訳し,さらに「位相的」に翻訳する研究を行った.また,研究成果の発表を行った. ● Zalcmanの補題を用いて反正則2次多項式の力学系のパラメーター空間の分岐集合(Tricorn)の構造を研究した.(論文執筆中)
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