研究課題/領域番号 |
24740112
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岡本 崇 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50541893)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 銀河形成 / 輻射輸送 |
研究実績の概要 |
平成26年度は特に、輻射フィードバックが超新星フィードバックと共に銀河形成にどのような影響を与えるかを調べ、特に銀河の星質量ーダークマターハロー質量関係と、星形成銀河の HII 領域の金属量と銀河の星質量の関係を赤方偏移 4 から現在に至るまで再現する上で輻射圧駆動の銀河風の存在が必要であることを示した。一方、超新星フィードバックによるエネルギー駆動型銀河風は銀河の星質量関数や光度関数の faint-end の傾きを決定することが分かった(Okamoto, Shimizu, Yoshida, 2014). また、輻射圧駆動型の銀河風ではダストによる光子の複数回の散乱が重要な役割を果たす。しかし、散乱の数値的取り扱いは非常に難しく計算量も多い。そこで、GPGPU やマルチコアを持つ複数ノードでの高並列でかつ効率よく、散乱込みの輻射輸送を取り扱えるコードを開発した(Tanaka et al. 2015). これにより現実的な計算時間で輻射圧駆動型の銀河風の生成を第一原理的にシミュレーションすることが可能になるはずである。 さらに、銀河中心核の研究において、今までの研究では無視されていた、超大質量銀河中心ブラックホールの母銀河内に存在するダストの影響を調べる研究を行った。その結果、母銀河内のダストによる遮蔽効果は大きく、ダストの影響が無視できる X 線での観測結果と、それが無視できない B-band の観測結果を統一的に説明するためには、銀河中心へのガス供給は母銀河内の爆発的星形成より数力学時間程度遅れる必要があることが明らかになった (Shirakata et al. 2015).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最終年度を残して、当初目的としていた輻射の影響を考慮した宇宙論的銀河形成シミュレーションによる銀河の形成・進化の様子を描くことができた。特に輻射圧駆動型銀河風が存在しない場合に、銀河の星質量ーダークマターハロー質量関係を特に大きなダークマターハロー質量について再現できないこと、星形成銀河の電離領域の金属量の進化が観測と比較して速くなり過ぎることを明らかにし、輻射圧駆動型銀河風の重要性を知ることが出来た。 また、散乱光も取り扱える三次元輻射輸送コードが完成した。このコードは複数ノードを持つ GPGPU やマルチコアアーキテクチャといった現在主流のスーパーコンピュータのアーキテクチャ向けに開発されており、これらのスーパーコンピュータ上で高効率で実行できる。また ART (Razoumov &Cardall 2005), と ARGOT (Okamoto, Yoshikawa, Umemura 2012) と呼ばれるアルゴリズムを用いることにより、光源数、メッシュ数あたりの計算量を大幅に削減した。これらの工夫により、宇宙再電離や銀河風生成における散乱光の影響を大規模数値シミュレーションで直接確かめることが可能になった。 活動銀河核については、これまでも銀河中心核に存在するダストに注目する研究は存在したが、銀河の形成・進化と銀河中心巨大ブラックホールの成長を準解析的手法を用いて整合的に扱うことにより、銀河内のダストによる減光効果が無視できないほど大きいことを明らかにし、銀河と銀河中心ブラックホールを統一的に扱うことの重要性を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
宇宙論的銀河形成シミュレーションについては、現象論的取り扱いをしていた活動銀河核によるフィードバックを、銀河中心超巨大ブラックホールの形成・成長をシミュレーション内で物理的に追うことにより、無矛盾に取り扱う。ここでは特に、星形成銀河が星形成を行っていない静的な銀河に進化する際に、活動銀河核からの輻射やジェットがどのような役割を果たすのかに注目して研究を行う。このエネルギーが輻射として放出されるか、ジェットとして放出されるかはブラックホール質量に対する質量降着率の大きさに依存するため、それぞれのフィードバックはタイミングと役割が異なるはずである。今までのシミュレーションでは後者しか考慮していなかったが前者が銀河進化のどのタイミングで効いてどのような役割を果たすのかは観測結果を理解する上でも重要である。 また、昨年度完成した散乱光入り輻射輸送コードに自己重力と流体計算を実装し、理想化された星形成銀河のシミュレーションを行うことにより、銀河風駆動に対する輻射の影響を光電離加熱と輻射圧、それぞれについて明らかにする。特に後者についてはダストによる多重散乱の影響を調べるためにダスト量(金属量)を変化させながら行う。ダスト量を増加させた場合、ダストによる遮蔽効果により当然電離領域は縮小すると考えられるが、一方、ダストに散乱される光子により輻射圧は増加するので、銀河の金属量により輻射によるこの 2 つの効果はそれぞれ異なると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外出張が講義と重なり取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は英・Durham 大学へ研究打ち合わせに行く予定である。その他の予算執行は予定どおり物品購入と研究会旅費にあてる。
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備考 |
シミュレーションの動画がダウンロードできます。
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