研究課題/領域番号 |
24740114
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長谷川 賢二 筑波大学, 計算科学研究センター, 研究員 (20536627)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / フランス共和国 |
研究概要 |
宇宙再電離期における銀河形成に関する宇宙論的輻射流体シミュレーションを行った。その結果、星からの紫外線が銀河内の星形成率や電離光子の脱出過程に大きく影響し、結果として銀河間物質の電離史にも重大な影響を与える事を示した(Hasegawa & Semelin 2013, Umemura et al. 2012)。 上記の計算では超新星爆発による重元素汚染効果を考慮していなかったが、重元素汚効果は、冷却率の上昇、ダストによる紫外線光子の吸収、ダスト表面での水素分子形成といった過程により、銀河内での星形成率や銀河間物質の電離過程に影響を与える事が予想させるため、これらの効果を含めたシミュレーションも実行した。その結果、重元素の存在比が高い大質量銀河内では、重元素汚染効果が紫外線による星形成阻害を抑制する働きをし、それが主に冷却率の上昇に起因する事を示した。また、ダストは紫外線を効率よく吸収する事で、銀河から銀河間空間へ抜け出す電離光子数が減少させ、結果として銀河間空間の電離史はダストによる吸収効果を考慮しない場合に比べて遅く進む事も示した。さらに、紫外線による加熱は銀河間物質分布を平滑化する事で、従来のよく行われてきたポストプロセス的に銀河間物質の電離構造を解く手法に比べて約半分程度の電離光子数でも電離状態を維持できる事も明らかにし、正確な星形成率を計算する為だけでなく、銀河間物質の電離状態を正しく計算する為にも、輻射輸送と流体計算をカップルさせた輻射流体計算が必須となる事を示した(Hasegawa 2013,投稿準備中)。 その他、より高速かつ大規模な並列化も可能な新たな輻射輸送計算アルゴリズムを開発も行い、より多くの粒子を扱った輻射流体シミュレーションの実行を可能とし、その結果を国際会議で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、重元素汚染効果を組み込んだ輻射流体シミュレーションを実行し、重元素汚染効果が紫外線フィードバックを和らげる役割を果たす事や、紫外線フィードバックが銀河の質量関数や銀河間空間の密度構造への影響を明らかにできた。しかし一方で、個々の銀河内部の詳細な密度構造への影響や電離光子の脱出確率の調査などについては、当初の予定より若干の遅れが生じ、十分に行えなかった。これは、より高速に大規模な輻射流体計算を行う為に、当初の予定にはなかったK computer等の大規模並列計算機に適した新たな輻射輸送アルゴリズムの開発を行った為であるが、この開発した新手法により、今後実行するシミュレーションに要する時間の短縮が大いに期待できる。これらの状況を総合的に見て、研究達成度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新たに開発した計算コードを用いて引き続きシミュレーションを行う。特に、これまでの結果に加えて、個々の銀河内の密度構造や電離光子の脱出過程における紫外線フィードバックの効果を詳細に調査する事で、「いつ」「どのように」宇宙再電離過程やその時期における銀河形成過程が進んだかの解明を試みる。 また、個々の銀河のスペクトルエネルギー分布を輻射輸送計算によってシミュレートし、Hyper Suprime-Camで観測される銀河の紫外線・ライマンアルファ光度分布との直接比較を行う事で、私の宇宙再電離・銀河形成モデルの妥当性の検証や、今後、次世代の観測機器によって観測が期待されるより暗い銀河の光度関数の予言を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
シミュレーションの実行は、主に京(K computer)を用いる予定であるが、その結果の解析や小規模な計算でのパラメータ依存性調査の為に、京都大学の計算機システムXE6を借用する。また、成果発表の為の旅費、及びデータ保存の為のハードディスクドライブ購入にも使用する。
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