研究課題/領域番号 |
24740120
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐々木 貴教 東京工業大学, 理工学研究科, 特任准教授 (70614064)
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キーワード | 太陽系外惑星 / 地球型惑星 / 惑星形成論 / 生命居住可能惑星 / 初期地球 / 巨大衛星 / 内部海 / 冥王代 |
研究概要 |
本研究課題では、太陽系外地球型惑星について、汎惑星形成理論を用いた数値計算により、その形成と進化の過程を議論する。本年度は理論モデル拡張のための複数の基礎的研究を行った。 生命居住可能な惑星の多様性を議論するために、内部海を持つ地球型惑星、および初期地球における天体衝突による表層環境変動に関する基礎的研究を行った。前者については、Tajika (2008) を参考に地球とは異なる海水量・放射性熱源量を持つ地球型惑星の熱進化を解き、多様な内部海を持つ地球型惑星が存在すること、および高圧氷の発生により内部海の構造が大きく変化することを示した。この成果については、Ueta & Sasaki (2013) によって発表済みである。後者については、巨大天体衝突の破片が地球型惑星に再集積する際に、惑星の初期進化に対して力学的および化学的に大きな影響を与える可能性を指摘し、これまでとは全く異なる新しいシナリオを提案した。特に生命の進化と発生に有利とされる、還元的な大気環境を長期間保持する可能性を提示したことは、一般的な地球型惑星における生命居住可能性を議論する上で、非常に重要である。この成果についても、すでに査読論文として投稿済みである。 一方、前年度に作成した汎惑星形成理論に関する数値モデルを、ガス惑星周りの衛星形成に応用し、太陽系外の巨大ガス惑星周りで、地球サイズの衛星が形成される可能性、およびその天体上での生命居住可能性についての研究も行った。太陽系外において、木星の10倍近いサイズの惑星が多数発見されており、そうした超巨大ガス惑星の周りには、放射性熱源などの内部熱のみで十分なエネルギーを獲得できる、地球サイズの巨大衛星が形成される可能性があることがわかった。この成果についても、すでに査読論文として投稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は特に、当初の研究計画の枠を超えた新たな研究課題について積極的な取り組みを行い、この新しい課題を含めたより複眼的な研究を進めることができた。多様な地球型惑星・生命居住可能惑星の形成と進化を議論するためには、太陽系には存在しないタイプの惑星・衛星についても考慮する必要がある。新たな研究課題への取り組みにより、今後の汎惑星形成理論の拡張に向けて、非常に重要な研究成果を挙げることができたといえる。 また研究計画に添って作成した数値計算コードについて、当初の研究計画の枠を超えた天体(超巨大ガス惑星周りの地球型衛星)の形成モデルに応用し、新しいタイプの生命居住可能天体についての議論ができた点も、今年度の重要な成果である。次年度以降の大規模なモンテカルロシミュレーションへ向けて、十分な準備ができたと同時に、本研究計画で作成した数値計算コードの汎用性の高さを示すことができたといえよう。 以上の研究成果について、特に地球型惑星の初期進化については、非常に画期的な結果を得ることができた。これらの成果は、それぞれ国内外を含む複数の学会発表によって報告を行った。また本研究計画に関連した査読論文として、Ueta & Sasaki (2013) がすでに出版、さらに Sasaki et al. および Heller et al. の2本が現在投稿中である。また現在投稿準備中の論文(Shibaike, Sasaki & Ida)も1本あり、次年度以降これらを随時出版していく予定である。 本年度は、研究計画の遂行および新たな研究課題への取り組みにおいて、質・量ともに非常に充実した活動を行い、期待以上の研究の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに行った基礎的研究をもとに、一般的な地球型惑星の形成に関する半解析的なモデルを作成し、数値計算コードの拡張を行う。特に惑星形成の後期ステージ、および初期進化ステージにおける、水の獲得・保持・散逸に関するモデルを組み込むことで、多様な水量を持つ惑星の生命居住可能性について議論することができるようになると期待される。 拡張した数値計算コードを用いて、地球型惑星の形成に関するモンテカルロシミュレーションを行う。主に原始惑星系円盤の粘性・降着率が氷境界の移動率を支配するため、これらをパラメータとして計算を行い、形成された地球型惑星の質量・密度と氷(水)の量を定量的に求める。惑星形成環境の動的な変化により実現される地球型惑星の多様性、および質量・密度分布などが明らかになる。 一方で、惑星形成過程で予想される天体同士の衝突、および中心星輻射による大気散逸について、地球型惑星の初期進化に関する研究を拡張する。ここでは、N体計算、SPHシミュレーション、およびハイドロダイナミックエスケープを用いた数値計算が、それぞれ必要となる。特にSPHシミュレーションについては、近年開発されたDISPH法(Hosono et al., 2013)を用いることで、より正確な天体衝突計算を独占的に行うことができると考えている。DISPH法については、すでに基礎となる計算コードがほぼ完成し、個別の問題に対して適用するための準備は整っている。 これらの数値計算の結果から、予想される惑星の成分の時間進化について半解析的な式を導くことで、汎惑星形成理論を拡張する。主に大気や氷の層の蒸発・散逸によって、惑星の成分・密度が時間進化する。こうした効果を新たにモデルに組み込み、再度モンテカルロシミュレーションを行うことで、最終的な地球型惑星の多様性、および質量・密度分布などが明らかになる。
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