「あかり」中間赤外線全天地図で探る惑星と生命の物質の起源

2013 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 24740122
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 石原 大助 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任講師 (30507835)
• キーワード: 観測天文学 / 赤外線天文学 / データ解析 / 星間物質 / 銀河進化

研究概要

本年度は、昨年度に引き続き「あかり」中間赤外線全天サーベイから波長9ミクロン帯および18ミクロン帯のdiffuseマップを作成するための、解析手法の確立が更に進んだ。昨年度積み残した課題である、光応答のノンリニアリティの補正、リセット直後の出力のアノマリの補正、カメラ内で生じる散乱光の補正、黄道光差し引き精度の改善、について取り組み、マップの精度をさらに向上することに成功した。また、マップをサイエンス利用するために必要な、表面輝度や位置の較正、およびこれらの精度評価についても進んでいる。精度が良くなったdiffuseマップに基づいて、新しいサイエンスが可能になった。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

「あかり」中間赤外線全天サーベイデータからdiffuseマップを作成するにあたり、課題として挙げていた解析上の問題をクリアし、本研究の当初の目的はほぼ達成した。先行研究である、IRAS衛星やCOBE衛星の中間赤外線波長帯でのマップよりも、精度良いマップを作成する手法を確立できた。しかし、マップの精度を上げることによって、これまで黄道光や比較的強度の強いartifactsに隠されていた他のartifactsの影響が明らかになり、さらなる課題も確認した。
精度良いdiffuseマップを作成できるようになったため、これまで明るい黄道光やartifactsに隠されていた、淡く拡がった銀河面放射成分の議論が可能になった。宇宙空間の有機物(芳香族炭化水素;PAH)からの輝線放射を捉えている波長9ミクロン帯において、銀河中心方向に大規模な放射構造を発見し、この構造の物理状態と起源について議論を始めた。また、黄道光の差し引き精度を上げる過程で、我々太陽系内の惑星間塵の分布と性質に関してもより精確な情報が得られ、これらの物理状態と起源についても議論を始めた。

今後の研究の推進方策

本研究により、「あかり」中間赤外線全天サーベイデータから、精度良いdiffuseマップが作成できるようになった。これにより、淡く拡がったdiffuse成分の議論が可能になったが、データ解析上の更なる課題も明らかになってきた。この現状を踏まえ、今後以下の方策で研究を展開する。
(1) 精確なdiffuseマップの完成と公開。本研究によって、他の強烈なartifactsに隠れていた新たなartifactsが明らかになってきた。これらの原因を追求し補正することで、さらに精度の良いマップ作成を目指す。また、本研究の成果であるデータ解析の手法を、全天データのマスプロセス処理に実装し、全天マップを完成し、全世界に公開する。
(2) 本研究の結果、可能になったサイエンスを遂行する。精確な中間赤外線diffuseマップが得られるようになった結果、とくに淡く空間的に拡がった、銀河系内の星間空間の有機物(芳香族炭化水素;PAH)の輝線放射の研究が可能になった。一方、黄道光差し引きの精度を上げる過程で、太陽系内の惑星間塵の分布と性質も明らかになってきた。これらの議論は、申請者の次の研究(課題番号26707008)にて発展させる。
(3) 本研究の結果を次世代の観測装置開発へ応用する。「あかり」打ち上げ前・運用期間中には調べきれなかった観測装置の特性が、本研究にて半導体検出器の物理や装置の光学に基づきデータの解析を行うことにより、新たに明らかになってきた。これらの知識を、次期赤外線天文衛星の設計と地上試験計画に生かしてゆく。

次年度の研究費の使用計画

本研究の成果発表として最も重要な機会と位置づけていた国際会議（あかり国際研究会）が、昨年度中に開催予定であったが、1年ずれてしまった。これに使う予定であった、研究代表者と協力大学院生2名の旅費分が未使用となった。
国際研究会における、研究代表者と協力大学院生それぞれの成果発表のための旅費、および、成果をまとめるための計算機・ソフトウェアに使用する。

研究成果

• [雑誌論文] Observational Studies on the Near-infrared Unidentified Emission Bands in Galactic H II Regions (2014)
  • 著者名/発表者名: Mori, T. I., Onaka, T., Sakon, I., Ishihara, D., Shimonishi, T., Ohsawa, R., Bell, A. C.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 784 ページ: id.53
  • DOI: 10.1088/0004-637X/784/1/53
  • 査読あり
• [雑誌論文] AKARI Observations of Interstellar Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (2013)
  • 著者名/発表者名: Ishihara, D., Kaneda, H., Oyabu, S., Kondo, T., Yamagishi, M., Yasuda, A.
  • 雑誌名: LPI Contribution 巻: 1766 ページ: 1048-1048
• [雑誌論文] A Relation of the PAH 3.3 μm Feature with Star-forming Activity for Galaxies with a Wide Range of Infrared Luminosity (2013)
  • 著者名/発表者名: Yamada, R., Oyabu, S., Kaneda, H., Yamagishi, M., Ishihara, D., Kim, J. H., Im, M.
  • 雑誌名: Publications of the Astronomical Society of Japan 巻: 65 ページ: No.103
  • DOI: 10.1093/pasj/65.5.103
  • 査読あり
• [雑誌論文] Difference in the Spatial Distribution between H2O and CO2 Ices in M 82 Found with AKARI (2013)
  • 著者名/発表者名: Yamagishi, M., Kaneda, H., Ishihara, D., Oyabu, S., Onaka, T., Shimonishi, T., Suzuki, T., Minh, Y. C.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal Letters 巻: 773 ページ: id.L37
  • DOI: 10.1088/2041-8205/773/2/L37
  • 査読あり
• [雑誌論文] Large-scale mapping of the massive star-forming region RCW38 in the [CII] and PAH emission (2013)
  • 著者名/発表者名: Kaneda, H., Nakagawa, T., Ghosh, S. K., Ojha, D. K., Ishihara, D., Kondo, T., Ninan, J. P., Tanabe, M., Fukui, Y., Hattori, Y., Onaka, T., Torii, K., Yamagishi, M.
  • 雑誌名: Astronomy & Astrophysics 巻: 556 ページ: id.A92
  • DOI: 10.1051/0004-6361/201321614
  • 査読あり
• [雑誌論文] Large-area [Fe II] Line Mapping of the Supernova Remnant IC 443 with the IRSF/SIRIUS (2013)
  • 著者名/発表者名: Kokusho, T., Nagayama, T., Kaneda, H., Ishihara, D., Lee, H.-G., Onaka, T.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal Letters 巻: 768 ページ: id.L8
  • DOI: 10.1088/2041-8205/768/1/L8
  • 査読あり
• [雑誌論文] The 9 and 18 Micrometer Luminosity Functions of Various Types of Galaxies with AKARI: Implication for the Dust Torus Structure of AGN (2013)
  • 著者名/発表者名: Toba, Y., Oyabu, S., Matsuhara, H., Malkan, M. A., Ishihara, D., Wada, T., Ohyama, Y., Takita, S., Yamauchi, C.
  • 雑誌名: Publications of the Astronomical Society of Japan 巻: 65 ページ: No.130
  • DOI: 10.1093/pasj/65.5.113
  • 査読あり
• [雑誌論文] Comet 17P/Holmes: Contrast in Activity between before and after the 2007 Outburst (2013)
  • 著者名/発表者名: Ishiguro, M., Kim, Y., Kim, J., Usui, F., Vaubaillon, J. J., Ishihara, D., Hanayama, H., Sarugaku, Y., Hasegawa, S., Kasuga, T., Warjurkar, D. S., Ham, J.-B., Pyo, J., Kuroda, D., Ootsubo, T., Sakamoto, M., Narusawa, S., Takahashi, J., Akisawa, Hi., Watanabe, J.
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 778 ページ: id.19
  • DOI: 10.1088/0004-637X/778/1/19
  • 査読あり
• [学会発表] あかりとIRSFによるデブリ円盤の探査 (2014)
  • 著者名/発表者名: 石原大助
  • 学会等名: IRSF研究会
  • 発表場所: 名古屋大学
  • 年月日: 20140324-20140325
• [学会発表] あかりとIRSFによるデブリ円盤の探査 (2014)
  • 著者名/発表者名: 石原大助
  • 学会等名: 日本天文学会
  • 発表場所: 国際基督教大学
  • 年月日: 20140319-20140322
• [学会発表] AKARI Observations of Interstellar Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (2013)
  • 著者名/発表者名: Ishihara, D., Kaneda, H., Oyabu, S.
  • 学会等名: International Astrobiology Workshop 2013
  • 発表場所: JAXA宇宙科学研究所
  • 年月日: 20131128-20131130
• [学会発表] AKARI mid-infrared all-sky survey: development of the new inter-planetary dust (IPD) map and the world-first all-sky PAH map (2013)
  • 著者名/発表者名: Ishihara, D., Kaneda, H., Kondo, T., Amatsutsu, T., Nakamichi, K., Yamagishi, M., Oyabu, S., Ootsubo, T., Onaka, T.
  • 学会等名: The lifecycle of dust in the universe
  • 発表場所: ASIAA, Taiwan
  • 年月日: 20131118-20131122
• [学会発表] Evolution of solid materials in planet-forming disks - From AKARI to SPICA (2013)
  • 著者名/発表者名: Ishihara, D., Kaneda, H., Oyabu, S., Oseki, S., Takeuchi, N., Enya, K., Kotani, T., Haze, K., Onaka, T., Fujiwara, H.
  • 学会等名: SPICA Science Conference 2013
  • 発表場所: 東京大学
  • 年月日: 20130618-20130621
• [学会発表] 星惑星形成過程における固体物質の進化 (2013)
  • 著者名/発表者名: 石原大助
  • 学会等名: SPICAコロナグラフ装置(SCI)サイエンス検討会
  • 発表場所: 名古屋大学
  • 年月日: 20130516-20130516