研究課題
すざく衛星による観測研究を続行し、銀河中心部におけるX線放射を伴う分子雲の探査を行った。これまでの研究から、銀河中心ブラックホールいて座A*が過去に大フレアを起こし、そのX線を周囲の分子雲が反射して現在、X線反射星雲として輝いていることを突き止めている。しかし、いて座A*が現在の低活動期とは異なり、数百年前に活動性が100万倍も高かった原因はわかっていない。原因を解く鍵はいて座A*のフレアの時間変化を捉える必要がある。そこで、今年度はX線反射星雲を追観測し、そのX線放射強度の時間変化を調査した。その結果、複数のX線反射星雲からX線強度の時間変化を発見した。分子雲の大きさを考慮すると、この時間変化からいて座A*は1年程度以下の短い期間だけ活動をしていたことがわかった。さらにすざく衛星を用いて2つの超新星残骸を観測し、鉄に加えてニッケルのX線輝線を初めて発見した。強いニッケルからのシグナルから、これまでの超新星の元素合成理論より、ニッケルの合成量が1桁近く多いことが分かった。このことから超新星爆発が非対称である可能性を示した。さらに、2015年打ち上げ予定の次期X線天文衛星ASTRO-Hの開発を行った。主に、搭載観測装置の1つである軟X撮像検出器SXI のフライトモデルの機能検証、および性能評価、向上のための試験を行った。打ち上げのための総合試験を JAXA筑波宇宙センターで実行し、SXIの全てのシステムを統合して動作することを確認、予定性能を満足していることを実証した。また、打ち上げ後のデータ処理システムの開発を行った。
2: おおむね順調に進展している
ASTRO-H衛星開発の最終フェーズに入り、本年度の半数は衛星開発を行った。筑波宇宙センターで装置を統合した試験が始まり、自ら手がけた装置が衛星に組み上がっていくことは感慨深い。得られるデータの処理に関する開発も本格化し、ASTRO-H米国チーム(NASAほか)との連携を取りながら、進められている。また、運用中の「すざく」衛星で得た検出器較正のノウハウを使い、より良いデータ較正方法の開発も成功している。すざく衛星を用いた銀河中心部におけるX線反射星雲の観測研究では、想定通りの結果(X線強度の時間変化)を得ることができた。豊富なデータを得ることができたので、詳細を調べることで、思いもよらない結果がでるのではないかと期待している。一方で、超新星残骸の観測研究では、ニッケルの生成量が理論予測よりも1桁も過剰であるという驚くべき結果を得た。ニッケルの信号の帯域はノイズに埋もれやすいが、これまでの自身の研究成果を合わせることで得られた結果である。以上から、本研究は概ね順調に進展していると考える。
ASTRO-H衛星の打ち上げが2年後に迫り、その開発も進める。装置自体はほぼ完成できており、衛星を一通り組み上げ状態での総合試験を行う。衛星から受信した観測データの地上処理のシステム開発を中心に行いつつ、打ち上げ後に迅速にデータ取得、解析が可能な状況を構築する。銀河系中心部のすざく衛星の観測データをさらに詳細に調査する。平成26年度に銀河系中心部北側の観測を新たに行う予定である。北側には高温のプラズマが吹き出している兆候があり、その真偽を確かめる。もし本当であった場合は、X線反射星雲と同様に銀河中心ブラックホールいて座A*が過去に活動的であった名残であるかもしれない。プラズマはそこからジェット状に吹き出した可能性がある。これらの現象から導かれる結果は、全ての銀河の中心に存在すると考えられる巨大ブラックホールの物理描像に重要な情報を持つだろう。これらの結果を国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)などの国際会議で発表する。
すざく衛星による観測データを保存するための記憶媒体(RAID)の購入を予定していた。しかし観測が予定より遅れてしまったため、記憶媒体の購入の必要が1年遅れた。上記のデータ記憶媒体は観測の実行に合わせて、平成26年度に購入する。
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The Astrophysical Journal
巻: 773 ページ: ID.20
doi:10.1088/0004-637X/773/1/20
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 65 ページ: ID.33
10.1093/pasj/65.2.33