研究課題
平成24年度は、まずサブミリ波望遠鏡ASTEを用いた棒渦巻銀河M83に対する13CO(3-2)輝線のマップ取得とデータ解析を行った。既に取得済みの12CO(3-2)輝線マップを使うことで13CO(3-2)/12CO(3-2)輝線強度比の空間分布を得て、M83の各領域における分子ガス密度を試みた。しかし、特にガス密度が高いと思われる銀河中心領域で、予想に反して輝線強度比が低い(ガス密度が低いことを示唆する)という結果になった。そのため、分子ガスの物理状態を調べるために13CO輝線を用いる場合は、12COと13COのアバンダンス比を相当に注意深く取り扱わなければならない、という新たな知見を得つつある。また、当初の研究計画ではSpitzer望遠鏡による90μm/140μmのデータとASTEによる650μm/850μmのデータを用いてダスト温度を導出する予定だったが、Herschel望遠鏡による70μm/160μm/250μm/350μmの高精度かつ高空間分解能のデータがリリースされたため、こちらのデータを使ってダスト温度を推定し、12CO(3-2)/12CO(1-0)比や星形成効率(単位ガス質量あたりの星形成率)と比較した。その結果、M83の渦巻腕領域ではダスト温度がCO(3-2)/CO(1-0)比や星形成効率と密接な相関をしている様子が見られた。一方で、M83の中心や棒状領域ではダスト温度はCO(3-2)/CO(1-0)比や星形成効率とあまりよく相関せず、非常に分散が大きいという結果になった。こうした星間物質の物理状態と星形成の関係について中心/棒状構造と渦巻腕とで大きく傾向が異なる様子は、本研究で初めて明らかになった。現在、その原因を解明すべく、他の銀河に対しても同様の解析を始めているところである。
2: おおむね順調に進展している
初年度となる平成24年度は、当初の計画通り、棒渦巻銀河M83に関する分子ガスおよびダストのデータを収集することで、M83内における星間物質の物理状態の場所による違いや星形成活動との関係に対して一定の知見を得ることができた。M83以外の二つの銀河(NGC2903とNGC3521)に対しては、ダストに関する情報はHerschel望遠鏡のデータを初年度の時点で既に収集済みで、こちらは予定よりも早く進んでいる。一方で、分子ガスの情報については、当該年度にASTE望遠鏡がシステムトラブルを起こしたため、12CO(3-2)のデータを予定通りに得ることができなかった。この点については、より多くの観測時間を平成25年度に要求することで遅れを取り戻す予定である。トータルで考えれば、研究計画をおおむね順調に進めていることができていると自己評価する。
初年度にM83で得られた成果(中心/棒状構造と渦巻腕での星間物質と星形成の関係の違い)が何を意味するのかを解明するため、更なる研究を進めていく。特に、M83だけではなく他の銀河でも同様の傾向が見られるのか否かは非常に重要である。そのため、研究計画で挙げた残り二つの銀河(NGC2903とNGC3521)に対するデータ収集(特に分子ガス観測)を急ぎ、M83で行ったのと同様な解析を進め、系外銀河一般における星間物質と星形成の、空間構造まで考慮した関係について解明を目指す。
野辺山45m鏡やサブミリ波望遠鏡ASTEを使った、銀河の12CO(1-0)や12CO(3-2)の観測が急がれる。これには国立天文台三鷹キャンパスや野辺山キャンパスへの出張が必要となるので、そのための旅費として使用したい。また、本研究の成果をより深めるため、他機関の研究者と直接の議論を深めたい。そのため、国内外で開催される学会や研究会などへの参加費・出張旅費としても研究費を使用していきたい。また、M83の結果についてはできるだけ早期に査読論文として出版すべきなので、論文出版費用にも使用する予定である。
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