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2013 年度 実施状況報告書

大局的3次元輻射磁気流体計算によるブラックホール・アウトフローの構造と進化の研究

研究課題

研究課題/領域番号 24740127
研究機関国立天文台

研究代表者

大須賀 健  国立天文台, 理論研究部, 助教 (90386508)

キーワードブラックホール / ジェット / アウトフロー / 数値シミュレーション
研究概要

ブラックホール降着円盤から噴出するアウトフローは、星間ガスを加熱・電離することで周囲の星形成活動に影響を与えることが予想されている。また、円盤からガスが引き抜かれるため円盤の構造が変わる上、巨大ブラックホールの成長速度にも影響を与える。
まず、極方向に高速で吹き出すアウトフローの密度および速度構造を調べるため、相対論効果を組み込んだシミュレーションを行った。その結果、輻射圧で加速されつつも輻射抵抗によって最高速度が光速の約50%になることを発見した。
また、大局的シミュレーションの結果、極方向から赤道面付近にわたってほぼ全方向にアウトフローが噴出することを突きとめた。極方向のアウトフローはブラックホール近傍で速やかに脱出速度を超えるが、赤道面付近ではガスが徐々に加速されシュバルツシルト半径の数千倍も離れた領域でようやく脱出速度を超える。このアウトフローのKinetic Powerは円盤の光度に匹敵する。噴出したガスは周囲の星間ガスとの衝突によって衝撃波が発生すると予想される。近年、超光度X線源の周囲ではshock-excited bubbleが観測されているが、本研究で解明されたパワフルなアウトフローはこの観測事実を説明する有力な理論モデルと言える。
さらに、こういった輻射力で加速されたアウトフローが多数のガス雲に分裂することがシミュレーションによってわかったため、その物理的要因を調べた。結果、輻射圧優勢領域でのレイリー・テイラー不安定であることがわかった。熱的不安定や磁場の効果は本質的ではなかった。
ラインフォース駆動型円盤風の研究も引き続き進めており、およそ観測と一致する結果が得られている。スペクトル計算を用いた詳細な比較も開始している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ブラックホール周辺では様々な物理プロセスでアウトフローが発生する。電子散乱による輻射力やライン吸収による輻射力、磁気圧、場合によってはガス圧も有効に働く。また、発生したアウトフローは輻射抵抗により減速したり、輻射流体不安定で分裂したりする。また、ブラックホールのごく近傍から噴出するものもあれば、比較的遠方で発生するアウトフローもある。こういった多様で複雑な現象をしらべるためには単一の数値計算では不可能で、問題によって様々な手法を駆使しなければならない。
そういった状況の中、特殊相対論的輻射磁気流体力学コード、比較的遠方まで扱える輻射流体力学コード、ライン吸収を扱う流体力学コードと三種のコードを用いた計算に成功したことはそれ自体が大きな成果であったと言える。また、物理的にも輻射抵抗の効果や広角に広がるアウトフローのパワーを定量的に調べることに成功し、いずれも観測とおよそ合致するモデルを構築できた。加えて、観測的に示唆されているガス雲がアウトフローの分裂によって生成されることを示したのは、高分解能での数値シミュレーションを実行した成果である。複雑な状況を丁寧に解析し、分裂のメカニズムを解き明かしたことも重大な成果である。
以上のように、いくつかの数値計算法を駆使し、ブラックホール周辺で発生する多様なアウトフローの構造やメカニズムを解明することに成功しつつある。輻射スペクトル計算による観測との直接比較が残されているが、おおむね順調と評価できる。

今後の研究の推進方策

今後の計画の一つは、より厳密な輻射輸送計算を組み込んだ流体シミュレーションコードの開発である。現在使用している輻射流体/輻射磁気流体コードも十分に世界最先端なものであり、昨年度に引き続き使用していく計画ではある。しかし、輻射場を近似的に扱っていることは事実であり、特に輻射加速型のアフトフローを正しく調べるためにはより厳密に輻射場を解く必要がある。そのために輻射輸送方程式を直接解く方法を開発する。計算量は膨大となるが大型並列計算機用にチューニングして、これまでの研究成果を検証しつつ、新たな現象を解き明かしていく。
上記の計画と平衡して、これまでの計算コードに一般相対論効果を組み込む計画である。ブラックホールのスピンによってジェットが噴出するという機構は以前から知られていたが、近年、それが実際に有効に働いている可能性が指摘されている。一般相対論的シミュレーションは最近になって行われるようになったが問題はまだ解明されていない。一般相対論効果を組み込んだシミュレーションで、ジェットやブラックホールのごく近傍での円盤の構造を調べる計画である。
これまでの研究結果と観測データとの直接比較も実行する計画である。具体的にはシミュレーションデータをもとにモンテカルロ輻射輸送計算で輻射スペクトルを作り出し、観測データと直接比較するのである。この研究は国立天文台とJAXAのグループとの共同研究として既に開始している。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2014 2013

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Two-dimensional Numerical Simulations of Supercritical Accretion Flows Revisited2014

    • 著者名/発表者名
      Yang, Xiao-Hong; Yuan, Feng; Ohsuga, Ken; Bu, De-Fu
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 780 ページ: 79-93

    • DOI

      10.1088/0004-637X/780/1/79

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A Numerical Treatment of Anisotropic Radiation Fields Coupled with Relativistic Resistive Magnetofluids2013

    • 著者名/発表者名
      Takahashi, Hiroyuki R.; Ohsuga, Ken
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 772 ページ: 127-142

    • DOI

      10.1088/0004-637X/772/2/127

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Clumpy Outflows from Supercritical Accretion Flow2013

    • 著者名/発表者名
      Takeuchi, Shun; Ohsuga, Ken; Mineshige, Shin
    • 雑誌名

      Publications of the Astronomical Society of Japan

      巻: 65 ページ: 88-99

    • DOI

      10.1093/pasj/65.4.88

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Recurrent Outbursts and Jet Ejections Expected in Swift J1644+57: Limit-Cycle Activities in a Supermassive Black Hole2013

    • 著者名/発表者名
      Kawashima, Tomohisa; Ohsuga, Ken; Usui, Ryuichi; Kawai, Nobuyuki; Negoro, Hitoshi; Matsumoto, Ryoji
    • 雑誌名

      Publications of the Astronomical Society of Japan

      巻: 65 ページ: 8-12

    • DOI

      10.1093/pasj/65.4.L8

    • 査読あり
  • [学会発表] ラインフォース駆動型円盤風の輻射流体シミュレーションによるUltra-fast outflowの起源の解明2014

    • 著者名/発表者名
      野村真理子, 大須賀健, 和田桂一, 高橋博之
    • 学会等名
      日本天文学会
    • 発表場所
      国際基督教大学(東京都)
    • 年月日
      20140319-20140322
  • [学会発表] Radiation-MHD simulations of accretion flows and outflows around black holes2013

    • 著者名/発表者名
      K. Ohsuga
    • 学会等名
      Black holes, jets and outflows
    • 発表場所
      ホテル ラディソン(カトマンズ・ネパール)
    • 年月日
      20131014-20131018
    • 招待講演
  • [学会発表] 超臨界降着流からのジェット/アウトフローの形成2013

    • 著者名/発表者名
      高橋博之, 大須賀健
    • 学会等名
      日本天文学会
    • 発表場所
      東北大学(宮城県)
    • 年月日
      20130910-20130912
  • [学会発表] 突発天体Swift J1644+57の再バースト予測 II: 潮汐破壊星による質量供給率の時間変化を考慮した輻射流体シミュレーション2013

    • 著者名/発表者名
      川島朋尚, 大須賀健, 薄井竜一, 河合誠之, 松元亮治
    • 学会等名
      日本天文学会
    • 発表場所
      東北大学(宮城県)
    • 年月日
      20130910-20130912
  • [学会発表] 活動銀河核におけるラインフォース駆動型円盤風の輻射流体シミュレーション2013

    • 著者名/発表者名
      野村真理子, 大須賀健, 和田桂一, 高橋博之
    • 学会等名
      日本天文学会
    • 発表場所
      東北大学(宮城県)
    • 年月日
      20130910-20130912
  • [学会発表] 輻射流体計算による超臨界降着流及び噴出流の大域的構造の研究2013

    • 著者名/発表者名
      橋詰克也, 川島朋尚, 大須賀健
    • 学会等名
      日本天文学会
    • 発表場所
      東北大学(宮城県)
    • 年月日
      20130910-20130912
  • [学会発表] Global simulations of super-Eddington accretion flows and outflows2013

    • 著者名/発表者名
      K. Ohsuga
    • 学会等名
      Radiative Processes Near Black Holes
    • 発表場所
      Princeton Univ., USA
    • 年月日
      20130501-20130503
    • 招待講演

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公開日: 2015-05-28  

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