研究課題/領域番号 |
24740127
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
大須賀 健 国立天文台, 理論研究部, 助教 (90386508)
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キーワード | ブラックホール / ジェット / アウトフロー / 数値シミュレーション |
研究概要 |
ブラックホール降着円盤から噴出するアウトフローは、星間ガスを加熱・電離することで周囲の星形成活動に影響を与えることが予想されている。また、円盤からガスが引き抜かれるため円盤の構造が変わる上、巨大ブラックホールの成長速度にも影響を与える。 まず、極方向に高速で吹き出すアウトフローの密度および速度構造を調べるため、相対論効果を組み込んだシミュレーションを行った。その結果、輻射圧で加速されつつも輻射抵抗によって最高速度が光速の約50%になることを発見した。 また、大局的シミュレーションの結果、極方向から赤道面付近にわたってほぼ全方向にアウトフローが噴出することを突きとめた。極方向のアウトフローはブラックホール近傍で速やかに脱出速度を超えるが、赤道面付近ではガスが徐々に加速されシュバルツシルト半径の数千倍も離れた領域でようやく脱出速度を超える。このアウトフローのKinetic Powerは円盤の光度に匹敵する。噴出したガスは周囲の星間ガスとの衝突によって衝撃波が発生すると予想される。近年、超光度X線源の周囲ではshock-excited bubbleが観測されているが、本研究で解明されたパワフルなアウトフローはこの観測事実を説明する有力な理論モデルと言える。 さらに、こういった輻射力で加速されたアウトフローが多数のガス雲に分裂することがシミュレーションによってわかったため、その物理的要因を調べた。結果、輻射圧優勢領域でのレイリー・テイラー不安定であることがわかった。熱的不安定や磁場の効果は本質的ではなかった。 ラインフォース駆動型円盤風の研究も引き続き進めており、およそ観測と一致する結果が得られている。スペクトル計算を用いた詳細な比較も開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラックホール周辺では様々な物理プロセスでアウトフローが発生する。電子散乱による輻射力やライン吸収による輻射力、磁気圧、場合によってはガス圧も有効に働く。また、発生したアウトフローは輻射抵抗により減速したり、輻射流体不安定で分裂したりする。また、ブラックホールのごく近傍から噴出するものもあれば、比較的遠方で発生するアウトフローもある。こういった多様で複雑な現象をしらべるためには単一の数値計算では不可能で、問題によって様々な手法を駆使しなければならない。 そういった状況の中、特殊相対論的輻射磁気流体力学コード、比較的遠方まで扱える輻射流体力学コード、ライン吸収を扱う流体力学コードと三種のコードを用いた計算に成功したことはそれ自体が大きな成果であったと言える。また、物理的にも輻射抵抗の効果や広角に広がるアウトフローのパワーを定量的に調べることに成功し、いずれも観測とおよそ合致するモデルを構築できた。加えて、観測的に示唆されているガス雲がアウトフローの分裂によって生成されることを示したのは、高分解能での数値シミュレーションを実行した成果である。複雑な状況を丁寧に解析し、分裂のメカニズムを解き明かしたことも重大な成果である。 以上のように、いくつかの数値計算法を駆使し、ブラックホール周辺で発生する多様なアウトフローの構造やメカニズムを解明することに成功しつつある。輻射スペクトル計算による観測との直接比較が残されているが、おおむね順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画の一つは、より厳密な輻射輸送計算を組み込んだ流体シミュレーションコードの開発である。現在使用している輻射流体/輻射磁気流体コードも十分に世界最先端なものであり、昨年度に引き続き使用していく計画ではある。しかし、輻射場を近似的に扱っていることは事実であり、特に輻射加速型のアフトフローを正しく調べるためにはより厳密に輻射場を解く必要がある。そのために輻射輸送方程式を直接解く方法を開発する。計算量は膨大となるが大型並列計算機用にチューニングして、これまでの研究成果を検証しつつ、新たな現象を解き明かしていく。 上記の計画と平衡して、これまでの計算コードに一般相対論効果を組み込む計画である。ブラックホールのスピンによってジェットが噴出するという機構は以前から知られていたが、近年、それが実際に有効に働いている可能性が指摘されている。一般相対論的シミュレーションは最近になって行われるようになったが問題はまだ解明されていない。一般相対論効果を組み込んだシミュレーションで、ジェットやブラックホールのごく近傍での円盤の構造を調べる計画である。 これまでの研究結果と観測データとの直接比較も実行する計画である。具体的にはシミュレーションデータをもとにモンテカルロ輻射輸送計算で輻射スペクトルを作り出し、観測データと直接比較するのである。この研究は国立天文台とJAXAのグループとの共同研究として既に開始している。
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