研究課題/領域番号 |
24740129
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山田 真也 独立行政法人理化学研究所, 玉川高エネルギー宇宙物理研究室, 基礎科学特別研究員 (40612073)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ブラックホール / X線分光 / X線偏光 / 宇宙X線衛星 |
研究概要 |
本年度は、「すざく」によるブラックホール連星「はくちょう座X-1」のX線観測データを詳細に解析し論文としてまとめた。主な成果は、1) ブラックホール連星「はくちょう座X-1」は、質量降着量が低いときに、ブラックホールの周囲に形成される降着円盤が、最終安定軌道よりもやや外側に後退していることを、全25観測のデータを系統的に解析することで時間変動の仕方から確認することに成功した。従来の広帯域スペクトルをモデルでフィットする手法では解が縮退してしまい有意な結果を得るのが困難であったのに対して、時間変動の違い、すなわち、高温ガスと低温円盤の粘性の違いによる変動タイムスケールの違い、に着目し、低温の円盤を抽出できた点で、この低温円盤の存在をより確実なものとすることができた。2) 世界で初めて、「はくちょう座X-1」から、高階電離した鉄の吸収線の存在を発見した。これは、ブラックホール周囲に伴星からの降着が、断続的におきており、降着とともに密度や温度が時間変化することを示している。3) 激しいX線の強度変動に伴い、ブラックホール近傍の高温ガスが時間変動することを世界で初めて突き止めた。これは、「すざく」衛星に搭載された GSO シンチレータ検出器を主導的に較正したことでえられた成果である。その他、将来の飛躍に向けて、次期X線観測衛星ASTRO-Hに搭載されるマイクロカロリーメータ検出器の地上での応答性能や外乱の影響の評価を行い、衛星搭載品の作製に向けて改善点や課題の解決にむけて取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調といえる。すでに「すざく」衛星の較正論文を2本、主著で出しており、ブラックホール連星「はくちょうう座X-1」の「すざく」衛星だけで得られた結果の論文を主著で3本だした。論文の本数だけでなく、昨年のギリシアで行われたX線天文学の50周年の記念の国際会議にも、口頭発表に選ばれ、海外の著名な研究者からも様々な反響を得られており、一定の評価がされているもとの考えている。今年は、あたらしく「はくちょう座X-1」の観測がなされ、このデータからまた新しい結果がでることが期待できるので見通しも明るい。現在は、ブラックホール研究だけでなく、将来の2つのX線衛星、「ASTRO-H衛星」と「GEMS衛星」の開発にも取り組んでいる。「ASTRO-H衛星」は、概ね順調とまでは言えないまでも、地上での要求性能を満たす解が見つかっており、様々な制約条件のもの、宇宙空間でもできるかぎり長い時間にわたってその性能が発揮できるような道筋の究明をおこなっている。「GEMS」衛星については、プロジェクトの一時中断、という極めて厳しい状況に置かれたため、順調とはいえない。今年中の復活を目指して、様々な実験や体制の構築が進められており、復活すれば順調な軌道にのるものと考えている。このように、様々な衛星ミッションと共に動いており、どれも着実に結果がだせる前向きの方向に進んでおり、全体的にみて、本研究はおおむね順調である、という判断に至る。
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今後の研究の推進方策 |
ブラックホール連星にとりまく高温コロナの研究は、「すざく」に搭載されたGSOシンチレータと独自の解析手法により、コロナの温度が急激に変化することを突き止めた。これの解析方法の数学的な定式化と物理的な解釈をさらに押し進めるべく、ダラム大学の研究者と協力して進めていく予定である。ダラム大学では、ブラックホールの降着流の理論的な研究と、簡易的な理論モデルを構築してデータを解釈する技術が高いため、彼らとの協力により、「すざく」衛星が発見された現象の徹底解明をめざす。ASTRO-H衛星については、世界で最高のエネルギー分解能を実現するカロリメーター検出器が、どのような条件や環境に影響されるのかを、実験的、解析的に徹底的に理解することに挑戦する。まだ一度も宇宙で使われたことのない検出故、条件を洗い出すことが必携であり、最高の性能を維持するには何が必要かを徹底して見極める必要がある。日本の宇宙関係者はもちろん、海外の衛星に熟練した技術者とも情報交換を行い、現象の理解を押し進めていく。GEMS衛星については、衛星計画がNASAから再度承認されるように、日本側でできる実験や理論的な裏付け、チーム体制の構築を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
「すざく」衛星を用いたデータ解析を押し進める上で、諸外国の研究者との共同研究は不可欠であり、研究費の一部は、その旅費と滞在費に用いる予定である。GEMS衛星が一時中断という異例の事態が起こったため、昨年はNASAへの滞在を見合わせたために次年度使用額が 0 円以下にはならなかった。本年度は、GEMS衛星の復活をめざして、NASAとの密接な連携をとるため、そのための旅費も必要となる。ASTRO-H衛星のカロリメータ検出器を動かすには、液体ヘリウムを用いた極低温環境が必要であり、その際に必要となる消耗品などのためにも使う予定である。GEMS衛星のため、地上での偏光計を立ち上げるための事前実験で消耗品が必要となるため、これにも用いる予定である。
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