研究課題/領域番号 |
24740131
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
猿楽 祐樹 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 研究員 (10512147)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 赤外線天文学 / 高分散分光 / 回折格子 / イマージョングレーティング / 反射膜 |
研究概要 |
コンパクト・軽量な中間赤外線高分散分光装置を実現するキーデバイスとなるイマージョングレーティングの開発を行っている。本研究では、イマージョングレーティングの実現に必要な「溝加工された赤外線透過材料への金属成膜技術」の確立を目的とし、24年度は主にCdZnTe平面基板への成膜実験を行った。 CdZnTeへの金属成膜はこれまでに例がないため、他の物質への成膜実績を参考に、膜材(Al、Au)、成膜方法(蒸発系、スパッタ系)、基板温度(常温、高温)から6つの組み合わせを選んで平面基板へ成膜した。ただし、Auは付着性向上のため、Crをアンダーコートしている。 試作したサンプルの膜界面での反射性能を評価した。フーリエ分光器を用いて、サンプルの背面から光を入射させた際の総反射量を測定し(測定波長範囲は5-25μm)、基板表面での反射や内部での複数回反射の効果を補正して、膜界面での反射率を求めた。その結果、(Al、蒸着、常温)、(Al、蒸着、高温)、(Au、スパッタ、常温)、(Au、蒸着、常温)の4通りの組み合わせで、我々の目標とする反射性能(波長10-20μmにおいて反射率95%以上)を達成した。まず常温のままでの使用であれば、天文学用素子として十分な性能を持つことが示された。 我々の最終目標は低温での使用であり、熱サイクルの素子への影響を確認する必要がある。そこで、サンプルを液体窒素に直に浸して冷却して温度変化を与えた。まず目視でサンプルの状態を確認したが、剥離や変色などは見られなかった。つぎに前述と同じ方法でサンプルの膜界面での反射性能を調べたが、冷却前後で反射率に変化はなかった。平面での成膜については、少なくとも4つの方法が有効であることが示された。 本研究の成果は光学分野の国際学会(SPIE)、天文分野の国内学会(日本天文学会)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「溝加工された赤外線透過材料(CdZnTe)への金属成膜技術」の確立を目的とし、大きく分けて平面基板への成膜と溝形状への成膜の二つのステップの実験を計画している。24年度は、平面基板への成膜実験を行って、天文学研究からくる仕様要求を満たす膜材と成膜方法を選定することを目標としていた。実際に4通りの膜材と成膜方法の組み合わせが要求を満たすことを示し、目標を達成できたと言える。冷却試験について、交付申請書では、最終的な素子の使用環境の4Kまで冷やすことを予定していたが、熱膨張率の温度依存性や他の低温実験の経験を考慮して、液体窒素温度までの冷却で十分と判断した。また、交付申請書では、基板を蒸着源に対して斜めにセットした場合の成膜への影響を実験から調べることを予定していたが、これはシミュレーションでの予測も可能なことから、次のステップである溝形状への成膜実験にリソースを投入したほうが効果的と判断し、その検討に入った。申請時の計画と若干の違いはあるが、最終目的に対する研究の進行具合は順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、溝形状への成膜実験をメインに進める。24年度の平面基板への実験結果から4通りの成膜方法の候補があるが、Auの場合はCrのアンダーコートが必要であり、膜厚の一様性が反射特性に影響する恐れがある。それに対してAlは1層のみのため、反射特性については膜厚の一様性を担保する必要がなく、技術的な困難が少ない。AlとAuで反射性能に差はないため、Alでの成膜を第一候補とする。平面と異なり、溝形状では、反射特性の評価が課題となる。ここでは、イマージョングレーティングの使用と同じ光路配置で光を入射して得られる回折光から、反射特性を評価する。溝加工後、成膜後、熱サイクル後のそれぞれの段階において回折光を測定し、理論予測も含めて、回折光の強度やプロファイルを比較し、成膜の効果、実用性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な費目は、基板材料の調達費、溝形状の加工費、成膜費である。溝形状への成膜実験は、ミニサイズのイマージョングレーティングを製作することに等しく、詳細な金額はそのサイズに依存するが、概算として1回の試作につき少なくとも材料費に数十万円、加工費に数十万円、成膜費に20万円程度必要である。可能な限り複数個のサンプルを用意して性能の比較を行うが、最終的に上記費用との調整のうえ個数を決定する。製作サンプルの評価には、特殊な測定装置が必要であり、それを有する施設への出張や、加工メーカ、成膜メーカとの打ち合わせのための出張、また学会参加のために旅費を使用する。光学性能を測定するための専用の治具製作、測定データの解析や保存をするための計算機関連の物品も必要となる。
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