研究課題/領域番号 |
24740133
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
森 英之 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 研究員 (20432354)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | X線未同定天体 / 銀河系バルジ / 低質量X線連星系 / 銀河団 |
研究概要 |
銀河系バルジ方向の未同定X線天体の中で、X線天文衛星Suzakuによって初めて行われた2keV以上の硬X線撮像分光観測のデータ(2天体分)について、解析結果を論文にまとめた。1つは距離にして400pc程度に位置するRS CVn型の星であることが分かった。もう1つの天体は、そのX線スペクトルが20 keV辺りに折れ曲がりをもつ冪型関数で表すことができることから、新しい低質量X線連星系の可能性が高い。硬X線放射は、降着円盤起源の軟X線が、折れ曲がりのエネルギーに対応した高温の電子によって逆コンプトン散乱過程で叩き上げられたものと考えられる。 同じくSuzaku衛星によって2012年3月に観測が行われた、別の未同定X線天体のデータ解析も行った。この天体については、2011年にChandra衛星によっても撮像観測が行われているが、ROSAT All-Sky Survey (RASS) カタログに記載された位置にX線天体はなかった。しかし、Suzaku衛星の低バックグラウンドを活かした観測により、RASS天体から南東に1'離れた位置に半径4'程度の広がりを持つ円形のX線放射を発見した。この放射の輝度分布やX線スペクトルを解析したところ、z = 0.13 にある新しい銀河団であることが分かった。この成果を2013年春季天文学会で報告し、論文にまとめて投稿した。以上に加えて、Suzaku衛星による未同定X線天体の撮像分光観測を新たに2天体、9月と3月に実施した。現在これらのデータを解析中である。 その他、正確な位置決定を目的として2011年にX線天文衛星Chandraによって観測された、銀河バルジ方向の未同定X線天体11天体について、南アフリカ赤外線天体観測所IRSFのSIRIUS装置を利用した近赤外対応天体の探査を提案した。提案は採択され、6月に観測が行われた。現在データを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011 年に Chandra 衛星で観測した未同定X線天体について、IRSF/SIRIUS 装置で可視光対応天体の探査を実施できた。多波長観測に着手できたことで、X線天体の同定精度を上げるための手段が増えたことになる。また本観測を通じて名古屋大学赤外グループとの協力体制を確立することができた。並行して Suzaku 衛星によるX線撮像分光観測により、相補的に未同定X線源の正体の解明を進めている。本年度 2 天体の観測が行われたことで、少しずつではあるがサンプルが揃いつつある状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
未同定X線天体の精度よい位置決定と2keV以上の硬X線スペクトルの取得を目的としたX線撮像分光観測を、引き続きX線光学系を持つ Suzaku, Chandra, XMM-Newton 衛星などに提案する。並行して、これまでの撮像分光観測で得られた結果をまとめて、銀河バルジ方向の未同定X線天体について系統的な特徴を引き出す。他波長における対応天体の探査も、引き続き進めて行く。 IRSF/SIRIUS の近赤外観測で対応天体が決定できなかったものに対しては、限界等級を下げるためにより深い観測を提案する。対応天体が見つかったものに対しては、測光観測を行うために IRSF を始め他の可視光望遠鏡での観測提案を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでに集積した大量のデータを解析する必要があるため、大容量ストレージとともに高速の解析ハードウェアを購入する予定である。またデータ解析手法について、Suzaku 搭載X線望遠鏡に詳しい宇宙科学研究所前田良知氏、X線連星系に見識の深い京都大学上田佳宏氏他と相談するため、旅費を確保する。また現在投稿中のものも含めて、論文投稿料として使用する予定である。
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