研究課題/領域番号 |
24740134
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
成影 典之 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 宇宙航空プロジェクト研究員 (50435806)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 偏光測定 / ライマンα線 / 真空紫外線 / 多層膜コーティング / 太陽 / 彩層磁場 |
研究概要 |
コロナ・彩層といった太陽大気の加熱問題は、未だ解決されていない太陽物理学における最大の謎の一つである。日本の太陽観測衛星「ひので」の詳細な観測により、彩層はダイナミックな運動で満たされていることが分わかった。しかし彩層観測の大半は撮像のみで、エネルギーの輸送や解放に重要な役割を果たすと考えられている磁場の測定は、ほとんど行われていない。そこで私は、彩層磁場構造の解明こそが太陽物理学のフロンティアであると考え、真空紫外線(ライマンα線)を偏光分光観測し、彩層磁場を測定することを目指している。 本研究では、彩層磁場測定に必要な偏光解析装置の効率(光量)を従来(真空紫外線用の素材として古くから知られているフッ化マグネシウム(MgF2)製偏光解析装置)の2倍以上に増やす高反射率偏光ミラーの開発を行う。 平成24年度は、溶融石英の基板にMgF2とSiO2の薄膜を蒸着するタイプの多層膜高反射率偏光ミラーの試作と評価を行った。具体的には、評価測定に適したサイズの溶融石英基板(直径30mm)6枚を、約30mm×約80 mmの範囲に配置してコーティングを施し、シンクロトロン放射光施設を用いて評価した。 6枚の試作品の評価の結果、s偏光の反射率Rsは 54.8±0.2 %、p偏光の反射率Rpは 0.29±0.05 % であった。この時、偏光解析能力を示す指標 polarizing power P = (Rs-Rp)/(Rs+Rp) は 0.99 で、ほぼs偏光のみが取り出せる偏光ミラーが完成した。そして本研究の本題であるs偏光の反射率は、フッ化マグネシウム(Rs=22%)の約2.5倍で、目標以上の高い効率を持っていることが確認できた。また、6枚の試作品で均一な反射率を持っていたことも、実用化の観点から重要な成果である。これらの結果から、多層膜高反射率偏光ミラーの試作は成功裏に完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、直径30mmのテストサンプル基板を用いて多層膜高反射率偏光コーティングの試作を行い、その性能を放射光施設のライマンα線単色光を用いて評価した。この評価により、スペック以上の性能を持つコーティングを、約30mm×約80mmの範囲にわたって均一に施す技術が確立したことを確認した。これは当初の計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、平成25年度は、平成24年度に試作を行ったコーティング(溶融石英の基板の上にMgF2とSiO2の薄膜を蒸着したもの。以降、コーティングAと呼ぶ。)よりも反射率の高いコーティング(溶融石英の基板の上にAl, MgF2, Al, MgF2 という4層の薄膜を蒸着したもの。以降、コーティングBと呼ぶ。)の開発を予定していた。しかし、平成24年度の試作と評価により、コーティングAでも目標としていた「フッ化マグネシウムの2倍の反射率」を超える反射率を有していることが判明したため、平成25年度はコーティングBの試作ではなく、コーティングAの実用化に計画を変更する。具体的には、コーティングAを、約70mm×約150mmの大きさの基板に施し、実際の光学系の中で偏光板として機能するかを評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、実際の光学系の中で偏光板として機能するかを評価するため、「約70mm×約150mmの溶融石英の基板×2枚」の購入と、「MgF2とSiO2の多層膜コーティング」の実施に研究費を使用する計画である。 製作した偏光ミラーは、シンクロトロン放射光施設(岡崎市のUVSOR)で評価測定を行う予定で、そのための旅費を計上している。 また、学会での成果報告のための旅費も計上している。
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