コロナ・彩層といった太陽大気の加熱問題は、未だ解決されていない太陽物理学における最大の謎の一つである。この問題の解決には、エネルギーの輸送や解放に重要な役割を果たすと考えられている磁場の測定が不可欠である。しかし、測定原理と測定装置両面の困難さから、太陽大気の磁場測定は、これまで殆ど行われてこなかった。そこで私は、彩層磁場構造の解明こそが太陽物理学のフロンティアであると考え、真空紫外線(ライマンα線)を偏光分光観測し、彩層磁場を測定することを目指している。 本研究では、彩層磁場測定に必要な偏光解析装置の効率(光量)を従来(真空紫外線用の素材として古くから知られているフッ化マグネシウム(MgF2)製偏光解析装置)の2倍以上に増やす高反射率偏光ミラーの開発を行う。 平成24年度は、溶融石英の基板にMgF2とSiO2の薄膜を蒸着するタイプの高反射率偏光ミラーの試作と評価を行った(ミラーのサイズは評価に適した直径30mm)。評価の結果、s偏光の反射率Rsは 54.8±0.2%、p偏光の反射率Rpは 0.29±0.05% であった。この時、偏光解析能力を示す指標 polarizing power P = (Rs-Rp)/(Rs+Rp) は 0.99 で、ほぼs偏光のみが取り出せる偏光ミラーが完成した。そして本研究の本題であるs偏光の反射率は、MgF2(Rs = 22%)の約2.5倍で、目標以上の高い効率を持っていることが確認できた。 平成25年度は、実際の光学系に用いるサイズの基板(150mm×76mm)に対しコーティングを施し、評価を行った。その結果、試作品同様、高い反射率(Rs = 52%)と偏光解析能力(P = 0.99)を持ち、かつ面内で実用上一様の性能(反射率の面ムラ±3%以内)を持っていることが確認できた。 以上をもって、多層膜高反射率偏光ミラーの開発は成功裏に完了した。
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