研究課題/領域番号 |
24740135
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 史宜 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60503878)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子理論 / 宇宙論 |
研究概要 |
H24年度は素粒子理論および宇宙論にとって重要な実験・観測結果が発表された。まず第一にLHC加速器実験において標準理論におけるヒッグス粒子と思しき新粒子が発見された。ヒッグス粒子は標準李理論における質量の起源を与えるだけでなく、ゲージ対称性の自発的対称性の破れを担う、非常に重要な粒子であり、革命的な発見といえる。特に、宇宙論的な観点からいえば、初期宇宙における相転移、更にその質量から示唆される標準理論を超える物理の宇宙論的整合性など、多くの示唆を与えた。一方、2013年3月にPlanck衛星による宇宙背景輻射の精密観測結果が発表された。これによって原始密度揺らぎの起源として有力視されているインフレーション模型が大きく絞りこまれた。更に、暗黒輻射の存在量、密度揺らぎのガウス分布からのずれ、spectral indexのスケール依存性など、標準LCDM宇宙論の様々な拡張に対して厳しい制限がつけられた。H24年度は主にこれらの新しい実験、観測結果から得られる初期宇宙論への示唆、また予想される観測結果への準備を行なってきた。その主な成果をあげると、(1)ニュートリノ混合の起源として有力なneutrino mass anarchy hypothesisのleptogenesisとの整合性を調べ、宇宙の再加熱温度に対する制限を得た。(2) Higgs粒子質量から示唆されるhigh-scale SUSYが示唆するbaryogenesis、gravitinoを多く含むような宇宙進化について考察を与えた。(3) 具体的なmoduli stabilization mechanismにおいて、moduliの崩壊から一般にaxion dark radiationが出過ぎることを示した。などがあげられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LHC実験において発見された標準理論Higgs粒子の質量から示唆されるhigh-scale SUSYに基づき、その宇宙論に対する含意を様々な観点から研究を行うことができた。具体的には、バリオン非対称性の起源の候補であるAffleck-Dine機構、重いgravitinoを多く含むような宇宙の熱的進化、インフラトン崩壊によるgravitinoの多量生成問題の回避、宇宙再加熱後に生じるHubble-induced massの評価、hybrid inflationが抱えるinflaton tadpole problemをno-scale SUSYで回避かつmoduliのstabilization、暗黒物質とバリオン存在量のcoincidence problemが示唆する平行宇宙の予言、など、非常に多くのトピックに関して精力的に調べることで、LHC実験結果の初期宇宙進化への含意を多角的に明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
LHC実験の解析はこれまで標準理論ヒッグス(とおもわれる)粒子の性質を明らかにすることに主眼がおかれたきた。一方で、標準理論を超える新しい物理探索結果はH25年度夏頃に発表される予定であり、新たな粒子の兆候や、あるいは厳しい制限が得られるものと期待されている。一方でプランク衛星による宇宙背景輻射の偏光観測結果はH25年度からH26年度にかけて発表が予定されている。引き続き新しい実験・観測からのインプットが得られるため、発表前には予想される結果に向けた準備、発表後は準備に基づき速やかに宇宙論への示唆を引き出し、世界との厳しい研究競争に打ち勝つ。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は当初予定していた高性能コンピューターの購入および計算ソフトウェアを次年度に延期することによって生じたものであり、延期した購入に必要な経費として、平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。
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