研究課題/領域番号 |
24740135
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 史宜 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60503878)
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キーワード | インフレーション / 宇宙背景輻射 |
研究概要 |
宇宙背景輻射の観測実験であるプランク衛星による偏光観測結果発表に備え、新たなインフレーション模型を構成した。とくに、Polynomial chaotic inflationやmulti-natural inflationなど従来のインフレーション模型の予言(特に質量項によるquadratic chaotic inflationやsin関数で表されるnatural inflation modelの予言)からずれた予言を持つ模型を構築した。2013年度末にBICEP2という地上観測実験によってB-mode偏光が検出されたという報告があった。この報告直後から、直ちにその大きなB-mode偏光を予言するインフレーション模型について論文を発表した。更に、非常に高いスケールのインフレーションが持つ様々な含意について調べあげ、直ちに論文として発表した。特に、アクシオン暗黒物質に対する等曲率揺らぎの制限が非常に厳しくなるため、その制限を回避する方法を世界に先駆けて発表した。具体的には、saxion場がインフレーション中にPlanck scaleの10倍程度の値を持つ場合およびアクシオン質量がインフレーション中に重くなる場合を考察した。インフレーション模型と合わせて、BICEP2の結果発表からわずか数時間後に世界で初めてめてその含意を議論する論文を発表することが出来、世界中から多大な注目をあつめることに成功した。その後も精力的に研究成果をあげている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Planckの宇宙背景輻射観測結果を受け、すぐにPolynomial chaotic inflation模型を構築し直ちに論文を執筆した。更に、Planck観測結果による暗黒輻射、等曲率ゆらぎ、非ガウス性に対する含意に基づき、新たな模型構築や観測からの制限を課した。特筆すべき成果として、BICEP2による宇宙背景輻射B-mode偏光の検出という望外の大発見に際し、直ちにその結果に基づき多くの論文を執筆、発表することで、世界から注目を集める成果をあげることができた。具体的には、Higgs inflationによってquadratic chaotic inflationが可能であること、アクシオンの等曲率ゆらぎを避ける方法、running spectral indexを実現するインフレーション模型構築、PlanckとBICEP2の間のtensionを解く場合に必要となるscale invariantに近い揺らぎを作るlarge-field inflation模型構築、高いインフレーションスケールによるU(1)B-L 対称性回復に伴う右巻きニュートリノ暗黒輻射生成などについて論文を執筆し発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度中にBICEP2の結果を検証する実験結果が出るはずであり、その結果にもとづき、これまであげた成果を更に発展させる研究を遂行していく。特に重力波(テンソル型揺らぎ)の大きさが非常に重要となる。現在はBICEP2が比較的大きめの値を示唆しており、そのためPlanck衛星観測結果や他の宇宙観測とtensionがある。このtensionが本当なのか、それとも異なるのか、特にlarge scaleにおけるtensionはインフレーションの最初期に相当し、この時期に情報を得ることが宇宙開闢の謎の解明に繋がる可能性がある。この点に注目して研究を遂行していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
Planckの観測結果が出たことをうけ、その初期宇宙論および素粒子理論への含意に関する論文執筆に追われ、国内外への出張の回数が予想より下回ったことに加え、招待講演など旅費の補助を受ける機会が予想より多く、結果として本科研費の支出が抑えられる結果となった。 次年度はPlanck結果にくわえ、BICEP2の結果に関する研究を遂行し、論文を発表するとともに、前年度以上に講演およびセミナーをする機会を増やし、研究成果を広く世界に向けて発信する努力を行う。それに伴う旅費に加え、研究を遂行する上で必要なパソコンのアップグレードを行う予定である。
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