研究課題/領域番号 |
24740140
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
百武 慶文 茨城大学, 理学部, 准教授 (70432466)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 超弦理論 / 量子重力 / ゲージ理論 / AdS/CFT対応 |
研究概要 |
自然の基本法則を探求する素粒子論において、最難関かつ最重要なテーマは量子重力の研究であり、その量子重力理論の最有力と考えられているのが超弦理論である。近年超弦理論の研究が進展したことによって、ブラックホールの量子論的な性質の研究が深まりさらにそれを発展させたゲージ・重力対応が提唱され、我々の重力の量子論的理解は著しく進展した。ただし、ゲージ・重力対応はあくまでも状況証拠に基づく予想であり、現在のところ証明はなされていない。 本研究ではIIA型超弦理論のDブレーンの多体系に着目して、ゲージ・重力対応の直接検証を行うことを目的としている。ゲージ・重力対応を直接検証する場合、超弦理論のパラメータを有限に保った領域で、それぞれゲージ理論および重力理論について解析する必要がある。平成24年度の研究は、10次元時空で定義されたIIA型超弦理論におけるD粒子のN体系を考察し、ゲージ・重力対応の直接検証を行った。N体のD粒子上の理論としては、U(N)ゲージ対称性を備えた超対称量子力学が実現される。この理論は超対称性を備えているが、我々は場の自由度にエネルギーを与えて超対称性を破った熱的状態を非摂動的に考察した。これは西村淳氏(KEK)、花田政範氏(京大基研)および伊敷吾郎氏(京大基研)との共同研究によるもので、D粒子のブラックホール状態を数値的に構成することにほぼ成功した。このゲージ理論側のシミュレーションデータは、重力理論の量子論的解析結果と比較する必要がある。超弦理論では重力の量子効果はリーマンテンソルの高次項を取り入れることで実現され、我々はそれらを取り入れた運動方程式を解いて、ブラックホールのエントロピーやエネルギーを計算することに成功した。シミュレーションのデータが統計的に十分たまれば、ゲージ・重力対応が成立しているかどうかを検証することが間もなく可能となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は超弦理論によるゲージ・重力対応を解析することが研究の目的である。H24年度に行った研究では、超弦理論のD粒子をゲージ理論の立場から解析した。ゲージ理論の解析は強結合領域で行う必要があり、摂動的な解析は使えない。そこで我々は有限温度のゲージ理論をモンテカルロ法でシミュレーションですることにし、解析に必要なシミュレーションコードを完成させた。現在は低温領域におけるデータを順調に蓄積しているところであり、H25年度にはその成果を発表できると考えている。また、ゲージ・重力対応が正しいとすれば、ゲージ理論の結果は量子重力の効果を含んでいるはずである。我々は超弦理論に基づく量子重力の効果を取り入れて、ブラックホールのエントロピーや内部エネルギーを熱力学第一法則と矛盾のないように決定することに成功した。これはHawking輻射によるブラックホール蒸発のバックリアクションも含んでおり、このような研究はこれまでになされていないので、これ単独で非常にインパクトの高い研究結果であると考えている。既に重力理論の解析に関する論文は書き上げているが、現在はシミュレーションの解析データが十分にたまるのを待っている。この研究が完成すれば、ゲージ・重力対応に対して新しい知見が得られると期待される。 また上記の研究以外にも、私は3次元重力理論と2次元共形場の理論の対応を調べた。特に3次元超重力理論の作用から出発して共変な電荷やカレントを構成した。これらを用いると、3次元AdS空間の境界に2次元の共形場理論を特徴づける超ビラソロ代数が現れることが分かり、その中心電荷を重力理論の立場から導出することに成功した。中心電荷の項に関してはその値がゲージ・重力対応の予想とずれているという指摘があったが、今回の研究でその点については矛盾がないことを突き止めた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究はおおむね順調に進展しているので、H25年度はこれまでの研究を継続する。特にゲージ理論のモンテカルロ法によるシミュレーションデータを効率的に収集し、ゲージ・重力対応について超重力理論の近似を超えたレベルで議論を行う。そして、データのバックアップなどを考慮して、計算機のメモリなどハード的な部分を強化することを考えている。 なお、超弦理論においては量子重力を取り入れた有効理論はまだ完成していない。この研究は重要であるが、世界的にみてもこの計算を正しく実行しているグループは少ない。私は今後もその有効作用の導出を行う研究を継続して、ブラックホールやブラックブレーンの量子論的性質について解析を行う予定である。特にH24年度までに量子効果を含んだブラックホールの解は得られたので、H25年度はこの解を解析してHawking輻射の効果について理解を深める予定である。さらに、シミュレーションの結果を基に、ゲージ・重力対応の非自明な検証を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は千円未満であり、特段の使用計画はない。
|