研究課題/領域番号 |
24740141
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長江 大輔 筑波大学, 数理物質系, 助教 (60455285)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 磁気双極子モーメント / β-NMR法 |
研究概要 |
本研究の目的は基底準位磁気双極子モーメントの符号をβ-NMR法で決定することである。当該年度は符号決定に必要な回転磁場発生装置の開発・検知・偏向度測定、安定核による符号決定の原理実証の為、90度パルスNMRによる陽子の磁気双極子モーメント符号測定を行った。 回転磁場を発生するには同等の性能を持つ二つのコイルが必要であり、かつ二つのコイルの軸が90度に交差している必要がある。また偏向度が高い回転磁場を発生させる為には各コイルから発生する高周波磁場の振幅が同じであり、かつ位相に90度の差が必要である。その為、コイルが幾何学的に90度で交差するよう治具を製作し、印加する高周波電流の振幅・位相の調整ができるよう、必要な機器を購入した。回転磁場の検知はピックアップコイルで行い、得られた回転磁場の右回転、左回転磁場はともに90%以上の偏向度であった。製作した回転磁場発生装置を用いて符号測定の検証を陽子(水試料)を用いた90度パルスNMRにより行った。右回転、左回転磁場を作用させた場合のNMRに顕著な差が見られ、NMR信号強度の大きかった場合の回転方向と印加している静磁場の方向から得られた陽子の磁気双極子モーメントの符号はプラスであり、文献値と一致した。右回転、左回転磁場印加によるNMR信号より導出した回転磁場の偏向度はともに75%程度であり、多量かつ高スピン偏極度を有する原子核を対象としたNMRを行う上では十分な偏向度を生成できていることが確認できた。NMRから得た回転磁場の偏向度とピックアップコイルから得た偏向度とは一致しなかったが、これは測定手法、並びにピックアップコイルの位置によるものが影響していると考えている。以上より、多量かつ高スピン偏極度をもつ原子核については今回用いたパルスNMRによって符号の決定ができることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は基底準位磁気双極子モーメントの符号決定に必要な回転磁場発生装置の開発と回転磁場の検知が主なテーマであった。回転磁場発生装置の開発では二つのコイルの製作・高周波の振幅・位相調整機構を含む二系統の高周波回路の構築を行った。これらは当初の計画よりも進展した。 回転磁場の検知ではピックアップコイル用いた検知・偏向度測定、水試料を用いた陽子の90度パルスNMRによる符号測定・回転磁場偏向度測定を行った。ピックアップコイルによる回転磁場の検知では当初予定していた一つのピックアップコイルの利用ではなく、複数のピックアップコイルを使用することで回転方向の検知、偏向度測定にも成功した。陽子のNMRでは当初の計画していた回転磁場の印加方法(速い断熱通過法)による検証実験には至らなかったが、90度パルスNMRによる符号の測定、回転磁場の偏向度測定に成功した。回転磁場の偏向度はNMRを行うに十分な高い値を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
生成量が少なく、数%程度の偏極度の原子核に対応するため、速い断熱通過法による回転磁場の印加を行う。まずはシステムを構築し、水試料でその手法の効果を試す。具体的には共鳴周波数を含むように回転磁場の周波数を断熱的に変化させ、スピンの向きを変化させる。この場合、作用させる回転磁場の強度を大きくする必要があるので新たな高周波回路を構築する。 これに成功した後、磁気双極子モーメントの値、符号がともに既知である不安定核(11C、12N、20F、32Cl等を考えている)で実証実験を行う。当初の計画では大阪大学バンデグラフで行う予定であったが、復興支援として実験を行わせて頂け、筑波大加速器施設と同様の手法で偏極不安定核の生成ができる大阪大学核物理センターで実証実験を行う。偏極不安定核は偏極陽子または偏極重陽子ビームを試料に照射して生成する。生成した偏極不安定核に対し、速い断熱通過法を利用したβ-NMR法を適用させ、符号測定を行う。β線を測定する検出器は筑波大で所有しているが動作確認等の整備は必要である。整備に伴う必要な物品等を購入する。符号既知核での実証実験に成功した後には符号未知核(12N、16N、23Mg、29P、39Caなど)に本手法を適用させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本手法では高周波回路が二系統必要である。一系統についてはすでに所持しており、もう一系統の整備を進める。当初の計画では初年度に行う予定であったが、水試料での試験では高周波磁場の強度はそれほど必要ではなかった為、一系統の回路の出力を二つに分けることで賄えたことに加え、高周波アンプの一時的借用が可能であった為、本年度は購入に至らなかった。今後、生成量の少ない不安定核に研究対象を広げることを勘案すると大強度の高周波磁場が必要となる。そこで当初計画していた通り増幅率の大きい高周波アンプの購入を考えている。またβ線を測定する検出器は筑波大で所有しているが整備はが必要であるので必要な物品等を購入する。他には大阪大学での実験に掛かる旅費、物品輸送費、国内外の研究会参加費、旅費等に使用を考えている。
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