研究実績の概要 |
素粒子標準模型は,ほぼあらゆる素粒子反応を精密に予言するのに成功してきた。2012年にはヒッグス粒子が発見され,標準模型を構成する粒子がすべて発見された。一方,理論的には標準模型の背後にさらなる基本理論があると考えられ,その手がかりが探求されている。これに大きな示唆を与えたのが宇宙観測である。通常の物質は宇宙全体の5%程度を構成するににすぎず,27%は,これまでの宇宙観測にかからない暗黒物質であることが明らかになった。暗黒物質の正体となる候補は素粒子標準模型の中に存在しない。したがって,この結果は標準模型を超える物理があることを強く示唆する。他の示唆として,宇宙の始原リチウム存在比の問題がある。宇宙観測では,始原リチウム存在比がビッグバン元素合成(BBN)理論による予言値の半分程度にしかならない。 本研究では,これらの新規な知見を統一的に説明する素粒子模型を探求する。次最小超対称標準模型の枠組みで「暗黒物質の存在比」「リチウム問題」「ヒッグス粒子の質量」の3つの観測値を同時に説明できる可能性を示してきた。分析の結果,宇宙初期におけるスレプトンの残存量が鍵となることが明らかになった。この残存量は,レプトンフレーバーの混合に大きく支配される。したがって,本研究のシナリオをさらに絞りこむためには,レプトンフレーバーの混合構造の解明が欠かせないことが明らかになった。 フレーバー構造に迫る有力な可能性がニュートリノ振動の精密測定である。次世代ニュートリノ振動実験の一つの方向性として基線長が10,000km程度の加速器実験が考察されている。この場合,地球の内部構造を反映した物質効果の分離が課題と考えられる。そこで,物質密度の非一様性を取り込んだ系統的な分析法を開拓した。研究期間の終了日には間に合わなかったが,論文にまとめて投稿済みである。
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