研究課題/領域番号 |
24740146
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
土井 琢身 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 研究員 (70622554)
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キーワード | 核力 / 三体力 / 格子QCD |
研究概要 |
現代の原子核物理において、三体力の決定は最重要課題の一つであり、特に超新星爆発や中性子星の構造など、高密度系での役割が近年多くの注目を集めている。本研究では、Nambu-Bethe-Salpeter (NBS) 波動関数を用いることで、格子QCDによる三体力の直接計算を行った。本年度の成果として、主に次のようなものが挙げられる。 1. NBS波動関数の(相互作用が切れるような)漸近領域での振る舞いについて、散乱位相差の情報を正しく反映した形になっていることを、場の量子論的に証明した。従来、二体系での証明はあったが、これを(非相対論的近似のもとで)一般の多体散乱系に拡張することに成功したものであり、格子QCDでの三体力計算について明確な理論的基礎付けを与えた。 2. 前年度の研究において、相関関数の計算における新アルゴリズムの開発により、三体力計算を192倍高速化することに成功したが、今年度はより詳細なプログラムの改善を行い、さらに数倍の高速化に成功した。全体として、本科研費研究以前と比べ、約1,000倍の高速化に成功したことになる。 3. これらの成果を基に、三体力のクォーク質量依存性の研究を行った。従来は2フレーバー、パイオン質量 1.1GeV 1点での計算であったが、今年度はパイオン質量 0.93, 0.76 GeV での計算を行った。三重陽子チャネル・等距離直線配位での結果として、いずれの質量においても近距離三体斥力効果が存在することを見出し、クォーク質量依存性は(このクォーク質量領域においては)小さいことが解った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の新高速アルゴリズムの開発、今年度のさらなるプログラム高速化によって、三体力計算は非常に加速されており、これは想定を大幅に超える進展である。一方で、三体系特有の S/N の悪さの克服が現在の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度計算したような、比較的重いクォーク質量領域においては、三体力のクォーク質量依存性は小さかったが、軽いクォーク質量領域では、三体力は大きなクォーク質量依存性を持つことが予想されており、格子QCDにおいてより軽い点での計算を進めていく。さらに、三体力を決めるためには、やはり二体力を精度良く決めることも鍵となっており、二体力を決定するための、より信頼性のある手法の研究も進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として、ラップトップが想定より安価に購入できたため。 三体力の格子QCD研究では、(新アルゴリズムにより、大幅な改善がなされたとはいえ)膨大な計算資源が必要である。基本的には各計算機センターに対して無料の計算時間を申請しているが、研究の加速のため、必要に応じて計算時間の購入を行う。研究成果を発表し、また議論を通じて研究のさらなる発展を図るために、国内・海外への出張を行う。プログラム開発等のために、手元に計算機やハードディスク等を購入予定である。
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