今年度の主たる研究成果は以下のとおりである。 1)K-d反応によるLambda(1405)生成の研究:Lambda(1405)の性質を調べる重要な手掛かりとなるK-d散乱実験がJ-PARCで行われている。前年度の厳密な終状態相互作用の取り扱いを踏まえて、本研究では相対論的効果を取り込んだより現実的な理論計算を行った。結果として終状態相互作用の違いがスペクトルに与える影響を定量的に評価し、来たるべき実験結果と比較することでK中間子核子相互作用の情報を引き出せることを明らかにした。 2)閾値近傍の準束縛状態の構造:束縛状態に対する弱束縛関係式は模型に依存せず状態の構造を議論できる強力な手法であるが、ハドロン共鳴状態に適用するには関係式を不安定状態に拡張する必要がある。本研究では有効場の理論を用いることでこの拡張に成功し、複素数で得られる複合性の解釈を提案した。得られた関係式を現実のハドロンに適用することで、Lambda(1405)のKbarN成分が支配的であること、a0(980)のKKbar成分が支配的でないことを観測可能量から明らかにした。 3)チャームハドロン弱崩壊を利用したLambda(1405)の研究:チャームハドロンの3体弱崩壊では、終状態相互作用を通じてストレンジネスハドロン分光が可能となる。本研究ではLambda_cバリオンの崩壊を詳細に解析し、始状態相互作用により2体散乱のアイソスピンを選択的に取り出す機構があることを発見し、他の反応に比べてクリーンなLambda(1405)のシグナルが得られることを示した。 研究期間全体の一連の結果で、実験データに基づいた現実的なハドロン間相互作用が決定され、Lambda(1405)粒子がK中間子と核子の準束縛状態であるという描像が確立された。
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